53「レダとニュクトの再会」②




「……ニュクト? ニュクトなのか?」




 薄い紫色の髪をした、二十代前半の女性にレダは見覚えがあった。


 魔法使い特有のローブを被り、空からこちらを見下ろしているのは、王都で同じ冒険者パーティーに所属していた魔法使いニュクトだった。




「久しぶりですー。お元気でしたかー?」


「あ、ああ、元気だったよ。それよりも、ニュクトはどうして、この町に?」


「ちょっと! パパ! なに挨拶してるのよ! その女、パパに死ねって言ったんだけど、どういうことっ!?」




 急な、元パーティーメンバーとの再会に戸惑うレダの声を遮ったのは、ルナの大きな声だった。


 言われてレダも思い出す。


 ニュクトは、自分に死ぬように言ったことを。




「レダの娘さんはお元気ですねー。どういうこともなにもー、簡単なことですー。レダはー、今日ー、ここでー、死にますー」


「だから、どうしてそうなるのかって聞いてるのよ! あと、その間延びした喋り方やめなさいよ! イライラする!」




 犬歯をむき出しにしてナイフを構えるルナ。


 レダは、ニュクトが自分に害をなそうとしていることがわかり身構える。




「……レダ、ミナのことは任せろ」


「ああ、頼む。ミナ、ヒルデの後ろにいるんだ。いいね」


「……うん。気をつけてね、おとうさん」




 非戦闘員のミナを案じるも、頼りになるヒルデガルダがいてくれれば安心だ。




「あははははー。これはー、そういうー、仕様ですー。諦めてー、くださいー」


「うざっ!」


「それでですねー、レダについてですがー、復讐ですよー」


「俺に復讐? 悪いけど、俺がニュクトになにかをした覚えはないんだけどな」




 まったく心当たりがない。


 王都で冒険者パーティーを首になって以来、顔さえ合わせていないのだ。


 どうやって復讐される理由をつくれるのか疑問だ。




「確かにー、わたしにはー、なにもしていませんー。でもー、お前はー、ジールを殺しましたー」


「……なるほど。そういうことか」


「ご理解がはやくてなによりですー」


「ニュクトが、以前、ジールと付き合っていたのは知っていたよ。だけど、別れたんじゃなかったかな?」




 レダの記憶では、自分がパーティーに加入したときは、すでにニュクトとジールは別れていた。


 ジールの恋人は、ロザリーという女剣士だったはずだ。




「実を言うと、恨まれるならロザリーだと思っていたよ」




 原因はジール側にあっても、彼はレダに関わって死刑となった。


 いくらジールが自業自得であっても、恋人であるロザリーは自分を恨むと考えていたのだ。




「ロザリーはー、落ち目になったジールをあっさり見捨てましたー」


「……そうだったんだな」


「それにー、あの女はー、ちゃっかりー、新しい男とー、家庭を築いてましたよー」




 その情報にはレダもさすがに驚いた。


 レダが王都を去ってから一ヶ月ほどしか経っていない。


 その間に、レダは治療士として再出発し、ジールは野盗に落ちて死刑、ニュクトは復讐に走り、ロザリーは結婚と、みんながみんな人生に大きな変化があったようだ。




「じゃあ、ロザリーには恨まれなくてすむのかな?」




 長年付き合っていたジールを身限り、新しい男性と出会ったロザリーのことをどうこう思う資格はレダにはない。


 ただ、家庭を築いたのであれば幸せになってほしいと願う。




「いえいえー。もともとその心配はありませんよー」


「どういう?」


「だってー、もうー、ロザリーもー、その家族もー、死んじゃってますからー」


「……どういうことだ?」


「わたしがー、殺してやりましたー。あははははー」




 笑いながらかつての仲間を、いや友人を、手にかけたという彼女の言葉を、レダは聞き間違いだと思いたかった。








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