52「レダとニュクトの再会」①



 レダたちは、冒険者ギルドの屋上から、ナオミの活躍を見て安堵の息を吐いた。




「勇者っていうのはわかっていたけど、まさかあんなに強かったなんて思わなかったよ」




 困ったように苦笑いを浮かべるのはレダだ。


 先日、ルナを守ろうと戦いはしたが、かなり手加減をされていたのだとわかる。


 最初から、ナオミはレダなど瞬殺できたはずだ。


 しなかったのは、今ならわかる。


 彼女なりの優しさだろう。




「ていうかぁ、あたしと戦いたいとか言っていたけど、実力差がありすぎて死んじゃうから」




 ルナもまた苦笑いだった。


 それなりに場数を踏んで、実力があると自負しているが、ナオミほどじゃない。




「あたしと戦っても、ナオミは退屈したでしょうね」




 単純に強い人間となら、いくらでも戦いようがある。


 しかし、ナオミの強さは、ただ強いというわけではない。


 モンスターを一撃で数百体も屠ることができる力を使われたら、肉体的にはただの人間でしかないルナなど、同様に消し飛んでしまうだろう。




「ナオミおねえちゃん、つよーい!」


「なるほど。勇者とはよくいったものだ。まさに、勇者にふさわしい実力だ」




 感心しているのはミナとヒルデガルダだった。


 ミナは純粋にナオミの強さに心躍らせている。




 ヒルデガルダは、ナオミが勇者である由縁を納得していた。


 人とは基本スペックが違うエルフから見ても、ナオミの強さは凄まじい。


 集落一番の戦士と呼ばれていたヒルデガルダであっても、五千のモンスターにひとりで挑む勇気はない。




「あの子の強さには驚いたけど、これで町は大丈夫だな。出会いはさておき、ナオミが今日、アムルスにいてくれてよかった」


「ふん。別にあいつがいなくたって……なんてことは言えないわね。仮に、あたしや、テックスおじさんたち冒険者が全員で戦っても、間違いなく被害は出てたでしょうし」


「帰ってきたら笑顔で迎えてあげるんだよ?」


「はいはい。別にもう怒ってないから、そのくらいしてあげますよ」


「素直で結構」


「もうっ、茶化さないで! ったく、あたしも甘いわね。あの日、パパにあたしのことをいろいろ暴露したときは、なにがなんでもぶっ殺してやろうと思ったし、実際、パパの目を盗んでナイフ突き立てやろうとしてたけど」


「……そんなこと考えてたのか」




 ルナの行動力には呆れを通り越して感心してしまう。


 きっと返り討ちに合っていただろうが、当時はそれだけ怒っていたということだ。




「あの子って、馬鹿みたいに純粋なのよ。あたしを追いかけてきた理由だって、本当に戦いたかっただけみたいだし。一度は腹が立ったけど、もういいの」




 疑ってはいなかったが、先ほど、ナオミに許していると言ったことは事実のようだ。


 思い返せば、先日の誕生日も、ナオミからの誕生日プレゼントをルナは素直に受け取っていた。


 本当に怒っていれば、拒絶していた可能性だってある。




 ナオミに悪意がないことをルナもわかったのだろう。


 年長者としては、ナオミがルナに望んだように、ふたりがよき友人であってほしい。




「うんうん。ルナに友達ができてなによりだ」


「――ち、違うし! まだ友達じゃないから!」


「まだ?」


「もうっ、パパったら、やめてよね!」




 顔を真っ赤にするルナの頭をポンポンと撫でる。


 膨れっ面になってしまったが、大切な家族に友達ができることはいいことだ。


 それに、きっとナオミにとっても、友人は必要なのだと思う。




 強すぎる彼女には、守る理由は必要だ。


 愛する人がいればいい。


 いなくても、友達や家族がいるだけで、その力の使い方を誤ることがないだろう。


 レダは、不器用な少女の未来が、よいものとなることを祈った。




「さあ、俺たちもそろそろ俺たちにできることをしよう」




 きっと、冒険者ギルドに怪我人などが集まるはずだ。


 戦闘に早い段階で参加した冒険者や、自警団の人たち。


 逃げようとして、怪我をした住民たち。


 彼らを治す役目がレダにはある。




 戦場はナオミに任せ、レダが自分のすべきことをしようとしたその時、




「いいえー、レダにできることはー、死ぬことだけですー」




 空から、女の声が降ってきた。








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