44「リンザの末路」②



「……ここは……痛っ、そうよっ、ニュクト!」


「目覚めましたー?」


「よくもっ、あんたねぇ!」




 リンザが目を覚ますと、そこはアムルスの町ではなかった。


 なんとか見える場所に、アムルスがある。


 町から離れた草原にいるのだと、否応なく理解させられてしまう。




「文句を言いたいのはこっちですー。よくもー、レダにわたしの情報を売ろうとしましたねー?」


「誤解よっ。あれは、ただ金を騙し取るための作戦だったのよ! 本気にしないで!」




 言い訳にしか聞こえないリンザの言い分にニュクトは思い切りため息をついた。




「あなたってー、本当にクズですねー。レダは憎いですがー、あなたみたいな人とー、付き合っていたことには同情しますー」


「なんですって!」


「ほらー、すぐそうやって気に入らないと声をあららげることしかできませんー。たまにはー、違うことを言ってみたらどうですかー?」


「……ニュクト? あんた、どうしたの?」




 今までとは違う。


 明らかな嘲笑の混じったニュクトの物言いに、リンザが戸惑いを見せた。


 レダに情報を売ろうとしたことを怒っているのか、と考える。


 しかし、リンザはニュクトを裏切るつもりはなかった。




 なぜなら、レダを痛い目に遭わせたいからだ。


 魔法も戦闘力もないリンザにはできなくとも、魔法使いのニュクトにはできる。


 みすみす自分から手駒を手放すことなどしない。




 ただ、ニュクトの情報を匂わせてレダから金を巻き上げようとしただけだ。


 どうせ、モンスターに襲われて死んでしまう人間なのだから、金は必要ないと判断したのだ。




「ニュクト、話を聞いてちょうだい」


「さてー」




 リンザがニュクトの機嫌を直そうと声をかけたそのとき、




「風刃よ切り裂けー」




 間延びした短い詠唱が唱えられ、ニュクトが魔法を発動した。


 次に瞬間。


 リンザの右足に激痛が走る。




「やぁああああああああああっっ!?」




 足を斬られたのだとわかったのは、鮮血が吹き出し、痛みで地面を転がってからだった。




「うるさいですー。別に切断したわけじゃないんですからー、簡単に死んだりしませんよー」


「痛いっ、痛い痛いっ! な、なにすんのよ!? こんなことしてっ、ただで済むと思ってんの!?」


「リンザさんにはー、レダを苦しめて欲しかったのでー、協力をお願いしたんですけどー、なにをしてもー、中途半端でー、イライラしますー」


「あんたのその口調のほうがよほどイラつくわよ!」


「よくー、言われますー。まー、わたしの話なんてー、いいんですー。今はー、リンザさんのことですー」


「私をどうするつもりよ! 怪我させるなんてっ、慰謝料請求するわよ!」


「ご自由にどうぞー。ご迷惑料もー、お支払いしますー」




 あっさり支払いをするといったニュクトに、リンザは痛みを忘れて目を輝かさせた。




「――じゃあ!」


「……本当にー、お金しかないんですねー。いいですよー、お支払いは必ずするとお約束しますー。あなたの死体の上にー、置いておけばいいですかー?」


「――へ?」






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