43「リンザの末路」①



 ひとり、宿屋の前に取り残されたリンザは、顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。




「ばっかじゃないの! わざわざ、情報を持ってきてやった私のことを邪険にするなんて、信じられない!」




 リンザは金貨十枚さえもらえれば、本当にニュクトの情報を売ろうとしていた。


 すべて、ではない。


 放火したのはニュクトであることを伝える程度で、町を襲う計画まで話すつもりはなかった。


 情報を小出しにすれば、金貨も十枚以上取れると考えていたのだ。


 しかし、実際は、レダにまともに相手にされないで終わってしまう。




「いいわよ! あんたたちがどうなろうと知ったことじゃないわ! ニュクトと一緒にこの町を滅ぼして、金品を奪ってさよならしてあげるわ!」




 地団駄を踏んでいたリンザは、気が晴れず当てつけとばかりに宿屋の看板を蹴り倒してしまう。


 そのまま唾を吐いて、去っていく。


 そんな彼女の背後に、静かに現れる人影があった。


 ニュクトだ。




「リンザさんー、あまりー、感心しませんねー」


「なによ! って、ニュクト? ちょっと放っておいてくれるかしら、今、機嫌が悪いんだけど!」


「それはこっちのセリフですー。よくもー、レダにわたしの情報を売ろうとしましたねー」


「あ、あんた聞いてたの!?」


「もちろんですー。それではー、おしおきですー」


「な、なにを――がぁっ」




 問いかけようとしたリンザの側頭部を、力一杯ニュクトが杖で殴りつけた。


 その場に倒れ、意識を失うリンザ。




「クズな女だと思っていましたけどー、馬鹿な女でもありましたねー。わたしがしたことがバレたらー、リンザさんだってー、ただじゃすまないんですけどー」




 ニュクトは風魔法を使うと、倒れたリンザを浮かせて路地裏へと運んだ。


 そのまま、ニュクト自身も宙に浮き、町の外へと飛翔する。


 数分、空を移動したニュクトは、アムルスの町が見えるか見えないかの場所へ着地した。




「よいしょー」




 意識のないリンザを地面の放り投げ、「先客」の様子を伺う。




「あらー、目が覚めていたんですねー。残念ですー。寝ていたほうがー、きっと幸せだったんですけどー」




 憐れみと、嘲笑を込めた声で、「先客」に声をかける。


「先客」は女性だった。


 地面に描かれた魔法陣の真ん中で、手足を拘束されて大の字となっている。


 口も塞がれているため、なにか言っているのだが、さっぱりわからない。




 女性は二十歳を少し超えたくらいだった。


 赤毛が印象によく残り、女性にしては少々男性に近い格好をしている。


 彼女の名はロザリー。


 元パーティーメンバーであり、ニュクトにとって友人だった。




 さらに言えば、ニュクトのあとにジールの恋人になった女性であり、暴走し、借金を重ねていくジールを一番に見限った人物でもあった。


 そんなロザリーはあっさり冒険者をやめていて、結婚を前提にしている恋人まで作っていた。




 実に尻の軽い女だと思う。


 ジールと付き合っているときは、始終イチャイチャしていたというのに、見限った途端次の男を捕まえているのだから感心してしまう。




 ニュクトはロザリーだけが幸せになっているのが納得できず、彼女を「生贄」にすることに決めた。


 偶然の再会を装い、酒場で盛り上がると、薬を飲ませて誘拐したのだ。


 すでに手足の腱は切ってあるので動くことも逃げることもできないが、万が一を考えてロープで拘束している。




「もう少しでおわりますからー。待っていてくださいー」




 ロザリーに微笑むと、彼女はなにか言っているようだったが、無視した。


 ニュクトは杖を構え、魔法陣に魔力を注入していく。




「ふふふー、それではー、復讐の始まりですー」








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