42「元カノ再び」③
「随分と大変なことになったみたいね。レダのこと心配して様子を見に来たのよ?」
「それで、娘たちに絡むとか、神経を疑うよ」
「誤解よ! あれは、向こうが突っかかってきたのよ!」
ティーダと別れ、宿に戻ってきたレダを出迎えてくれたのは、家族と、リンザだった。
(いい歳した大人が、子供に突っ掛かられたってムキになるのもどうかと思うけどね)
相手にするだけ無駄だと思い、口にはしない。
またヒステリックに騒がれても困るのだ。
「それで?」
「え?」
「もう一度聞くけど、なんの用かな?」
「なによ、随分素っ気ないわね。町がレダのために用意した診療所が火事にあったようだから、慰めに来てあげたのに」
「耳が早いね。だけど、君には関係ない。俺はこれから家族といろいろ話すことがあるんだ。これ以上、用事がないなら帰ってくれ」
レダの淡々とした態度に、リンザの顔が歪んだ。
「慰めに来てあげた元恋人につれない態度じゃないの?」
「はっきり言わせてもらうけど、慰めは必要ない。あっても、君に慰めてもらうつもりもない」
「ねえ、私ね、あなたに提案があるのよ」
「俺の話聞けよ」
呆れるレダ。
もともと慰めなど必要なかったが、結局、リンザは自分の言いたいことだけを言いに来ただけだと察した。
「この町を出て、ふたりで別の町にいきましょうよ。そこで、治療士として稼ぎましょう!」
「そんなことするわけがないだろう!」
「……なによ! こんな田舎町に義理なんてないでしょ!」
「あるに決まってるんだろう!」
「前々から思ってたけど、レダはときどきおかしなことを言うのね。まだ住んで一ヶ月程度でしょ? そんな町に義理も愛着もないと思うのだけど」
「俺にはあるんだよ! もういい! とっとと消えてくれ!」
会話することさえ無駄だと判断したレダが、リンザの横を通り抜けて宿の中に戻るとする。
だが、そんなレダの腕をリンザが掴んだ。
「待ちなさいよ! 私が提案してあげたことの返事を聞いてないじゃない!」
「……リンザ。君は少しでも、俺が君と一緒に他の町で治療士として一からやり直す、なんて妄想が現実になると本気で思っているのか?」
「可能性ならあるでしょ? レダだって稼ぎたいから治癒士になったんじゃないの?」
「ふざけるな! 可能性なんてまったくないんだよ! もういい加減にしてくれ! はっきり言って迷惑なんだ!」
「――な」
「俺には大切な家族がいるんだ! なのに、君を優先して他の町に移住なんてするわけがないだろ! そもそも、俺と君はとっくに終わってるんだ。それこそ、なんの義理があって、君と一緒に再出発しなきゃならないんだよ!」
もうリンザに対し、怒りしか湧いてこなかった。
「俺はもう再出発したんだ! その次はない!」
肩で息をしながら、怒りを浮かべて言い放ったレダに、リンザも苛立った顔をした。
「あんたねぇ……せっかく、あたしがわざわざ善意で誘ってあげてるのに断るって言うの? そう、それなら、いいわ。でも、今度はどこが火事になるのかしらね?」
「――お前、まさか!」
「あら、変な誤解をしないでちょうだい。私は放火なんてしていないからね」
「どうして放火って知ってるんだ? 俺だってさっき、知らされたばかりなのに」
火事になったことはもうすでに広まっているのでリンザが知っていても不思議ではない。
だが、放火されたことはまだ一部の人間しか知らなかった。
被害者であるレダでさえ、先ほど聞いたばかりなのだ。
それを現場にいなかったリンザが知っているのはおかしい。
「そ、それは、あれよ。こんな町中で一軒だけ不自然に燃えたりしたら、普通は放火を疑うでしょ! あんたねぇ、そうやって、私のせいにして後で後悔しても知らないからね! せっかく、いい情報を教えてあげようと思ったのに!」
「情報だって?」
「そうね、金貨十枚でいいわ。とりあえず、それだけくれれば、レダのことを恨んでいる女の情報を教えてあげる」
「……俺を恨んでいる女?」
突然、心当たりのないことを言われ、困惑気味に首を傾げてしまう。
もちろん、リンザが金欲しさに嘘を言っている可能性だってある。
「そうよ。微塵も気づいていないでしょ? あんた、最近、随分と人を殺したそうじゃない。それで恨まれていないなんて思わないでしょ?」
「――くだらない」
「え?」
「恨みたいなら恨めばいい。俺が命を奪ったのは、野盗だけだ。もし、それを理由に恨むって言うなら逆恨みだ」
「あんた、なにをされるか怖くないっていうの?」
「もしも、俺に危害を与えようとするなら返り討ちにするだけだ」
「あー、おかし。あんたの娘に被害がいくことをまるで考えてないのね!」
娘、と言われてレダの顔が険しくなる。
「それは脅しているのか?」
「あら、そう聞こえたのかしら? でも、娘のことは心配でしょ? 大切だとか言ってるんだから、娘のためにも情報料を金貨十枚なら安いんじゃないの?」
「――娘は俺が守るから必要ない。お前にくれてやる金があるのなら、他のどこかにくれてやる」
そう言い放ったレダは、もうこれ以上話すことはないと、リンザの腕を振り払って宿に戻っていった。
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