40「元カノ再び」①





 ルナとミナ、ヒルデガルダは宿屋の前に座り、レダの帰りを待っていた。




「おとうさんまだかな?」




 不安そうにしているのはミナだ。




「パパならそのうち帰ってくるわよ。でも……」


「不安はわかるが、まずはレダの帰りを待とう」


「そうね」




 三人とも不安を隠せずにいた。


 レダがまだ日も昇らないうちに、呼び出されてから数時間が立つがまだ帰ってこない。


 一度は起きてしまった少女たちだが、レダの言いつけ通り、もう一度眠るも、起きたときに父の姿はまだなかった。




 仕方がなく朝食を先に取るも、まだ帰ってこない。


 次第に、少女たちの不安は募っていくこととなった。


 ついに待ちきれなかったミナが宿の外でレダを待ち始めると、ルナとヒルデガルダも付き合うことにしたのだ。




 すでに町の人から、診療所が火事で燃えてしまったことは聞いた。


 ミナたちはもちろん、住民たちも誰もが残念だと声をかけてくれる。


 それだけレダの診療所に期待していたのだろう。




「ったく、どうして火事なんて……パパはどれだけがっかりしてるのかしら」


「おとうさん、かわいそう」


「こんなときでも変わらず、ぐーすかいびきをかいて眠っていられるナオミが羨ましいな」




 この場にいない、勇者ナオミは、騒動に気づくことなく眠り続けている。


 そのうち、腹が減ったら起きてくるだろう。




 その後、三人は言葉もないままレダを待ち続けていた。


 そんなときだった。




「あら、あんたたちはレダの……っち、邪魔ね」




 どこからともなく現れたリンザが、ミナたちを見つけて心底嫌そうな顔をした。


 だが、お互い様だ。


 ミナたちもリンザの顔を見て、とても嫌そうな顔をしている。




「なによ、おばさん」




 ルナにおばさん扱いされたリンザは、頬を引きつらせた。




「……口の利きかたに気をつけなさいよ。躾てあげてもいいのよ?」




 嫌な笑みを浮かべたリンザに、ミナが怯えルナの背中に隠れてしまう。


 以前、冒険者ギルドまで押しかけてきたときの、リンザの暴言と横柄な態度を思い出してしまい怖くなったのだろう。


 ルナとヒルデガルダはミナを守るように一歩前に出た。




「子供を脅すとは見下げ果てた人間だな。レダが、お前のような女のどこを気に入って付き合っていたのか理解に苦しむぞ」


「――このっ、クソガキがっ、生意気なこと言ってんじゃないわよ!」




 顔を歪めて唾を飛ばすリンザだが、ヒルデガルダは平然としていた。




「おっと、私を見た目のままだと思ったら大間違いだ。まあ、私がかわいらしい少女にしか見えないことは否定しないが、こう見えてもお前の数倍の年月を生きているぞ」


「は?」


「年長者に敬意を払うといいぞ」


「……あんたみたいなガキがなにを」


「あのねぇ、ヒルデ。こんなものを知らなさそうなおばさんがエルフとかわかるわけないじゃない」


「それもそうだな。理解できないならいい、忘れてくれ」


「あんたたち……なにを言ってるの? 私を馬鹿にしてるのかしら?」




 顔を引きつらせながら、怒声だけは我慢したリンザは、自分の理解できない少女たちの会話を馬鹿にされていると判断したようだった。


 すると、ルナが呆れたような視線を向けた。




「えーっと、このおばさん、なに言ってるのかしらぁ? 別に馬鹿になんてしてないし。ていうか、前にも思ったけど、すぐそういうこと言うわよね。なにそれ、おばさんって常に自分が馬鹿にされているとか思ってるの? 被害妄想してないと死んじゃう病気にでもかかってるとか?」


「このっ、クソガキが!」


「あんた、さっきからそれしか言ってないですけどー」


「――っ、いいわっ、好き勝手に吠えていなさい! いずれ、レダが私とまた付き合うようになったら、あんたたちなんてこの町に捨ててやるんだから! 覚悟してなさい!」




 リンザの吐き捨てた言葉に、ルナたちは間の抜けた顔をした。


 そして、しばらくすると、笑い始めた。








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