39「念願のマイホーム?」②




「感謝なんて必要ないさ。むしろ、するのはこちらのほうだからね。さて、隣の空き家も改装し、医者と薬師用とする予定だ。隣接していれば患者も通いやすいんだろう」


「いい考えだと思います。患者が分散しなくていいですからね」




 雑貨店の中は決して狭いわけではないが、当初予定していた診療所に比べると半分ほどの大きさだ。


 治癒士が三人で働くことを考えるとちょうどいいかもしれないが、医者と薬師の部屋まで用意するのは広さ的に難しいと思えた。




 ティーダの提案通り、たとえ診療所がふたつに別れていたとしても、怪我人は治療士へ、病人は医者へいけばいいだけだ。


 怪我と病気を同時にしていても、診療所が隣接しているので問題ない。


 さらにいえば、怪我人と病人をわけることで診療所内の感染も避けることができるというメリットもある。




「欲を言えば、自警団もしくは冒険者が護衛として常に傍にいさせたかったので、もっと広ければよかったんだがな」


「護衛……つまり、また放火されるとお考えですか?」




 レダの疑問に、ティーダは首肯した。




「可能性ならあるだろう。ただ、私にはこの町の住人が放火をしたとは考えていない。レダの存在は、この町の希望だ。それは住民たちが一番わかっているはずだからだ」


「じゃあ誰がってなると、やっぱり外部の人間ってことになりますか?」


「そうなるだろうな。いや、そうあってほしいという希望もある」


「お心当たりは?」


「私の町の発展を快く思わない貴族が誰かを使ったのかもしれない。レダを取り込もうと、まずこの町に長く住まないように遠回しな嫌がらせをした可能性だってある。もっと言えば、レダを気に入らない回復ギルドの仕業かもしれない……と、考え出したらきりがない」




 そもそも、今回の放火がレダへの嫌がらせなのか、それともティーダに対するものかすらわかっていない。


 現状でわかっているのは、魔法が使われたこと、放火であることだけ。




「なんにせよ、犯人は必ず捕まえて罰しなければならない。現在、自警団と冒険者たちが犯人探しをしている」


「成果はなにかありましたか?」


「放火犯か定かではないが、怪しい女性のふたり組を見たという目撃者がいたが……それだけではな」


「女性、ふたりですか……」




 あいにく心当たりがない。


 とはいえ、どこで誰に恨まれているのかなどわからない。


 治癒士として活動しているレダだが、救えなかった命もある。その遺族が恨んでいる可能性だってあるのだ。




「自警団と冒険者に任せよう。私たちが余計に首を突っ込んでも迷惑になるだけだ」


「そう、ですね」




 できれば自分の手で犯人を捕まえ、なぜこんなことをしたのかと文句を言ってやりたくもある。


 しかし、ティーダのいう通り、すでに犯人探しを行ってくれているのだ、いたずらに首を突っ込んで犯人探しを邪魔したくはない。




「話を戻すが、雑貨店の改装は一週間ほどでできるそうだ」


「早いですね」


「みんなレダのために頑張ってくれるそうだ。完成し次第、ご息女たちと引っ越してくるといい。ここが君の家だ」


「ありがとうございます」


「礼など言わなくていいんだ。感謝したいのはこちらなのだからな」




 ティーダがレダに手を差し出した。




「町を代表しして君にお礼を言いたい。よく、この町に来てくれた。ありがとう。そして、これからもよろしく頼む」


「――はい」




 レダは差し出された手をしっかりと握りしめ、固く握手を交わすのだった。








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