36「ルナの誕生日」③



 ルナへのプレゼントは続く。


 続いてルナにプレゼントを手渡していくのは、メイリンとリッグスのドーラン父娘だ。




「ルナお姉ちゃんに、これをあげるね!」


「俺からはこれだ」




 メイリンからのプレゼントは、かわいらしい柄のエプロンだった。




「ルナお姉ちゃんは、いつもレダおじちゃんのために料理頑張ってるから! いいお嫁さんになれるよ!」


「うん。ありがと、メイちゃん!」


「うちのことも手伝ってもらってるしな。いつも助かってる」




 リッグスからのプレゼントは包丁だった。


 ミナとヒルデガルダもそうだが、愛しい父の食事を用意したいという乙女心から、朝夕食の支度は厨房を借りて三人で行っている。


 ベテランのリッグスはもちろん、手際のいいメイリンから幾度となく指導を受けて、今では慣れた手つきで料理をすることができるようになったルナたちだ。




 食材と場所を提供してもらっているお礼に、余った時間は厨房を手伝っていた。


 そのおかげで料理の腕はぐんぐん上達し、リッグスたちから認められるほどとなっている。


 そんな師匠とも言える父娘からのプレゼントに、ルナは自然と涙を浮かべてしまった。




「リッグスさんもありがと。あたし、これからも頑張るね!」




 それでも笑顔を作ってお礼を言うルナに、メイリンはひまわりのような笑みで返し、リッグスは照れたように頬をかいた。


 続いてルナにプレゼントを渡したのは、勇者ナオミだった。




「あ、あんたまでくれるの?」




 ルナが驚いたのも無理はない。


 もともとナオミはルナと戦うために、王都からアムルスへやってきたのだ。


 そこに悪意はなく、ただ強い人間と戦いたいという享楽的な感情があったものの、結果としてレダを巻き込んだ戦闘となってしまう。


 その結果、ナオミの興味はレダへ移り、一緒に行動するようになってしまった。




 ルナとしては、ナオミは少々頭の痛い存在だった。


 一度は追い出そうと企んだし、いつか隙を見て痛めつけてやるつもりでもいた。


 しかし、ナオミの明け透けな性格に毒気を抜かれ、気づけば彼女を受け入れつつある自分がいることにも気づいている。


 口喧嘩はするし、自らの過去を最愛のレダの前で暴露したことは許せないが、それらを含めて彼女のことを受け入れつつあった。




 そんなナオミが自分にプレゼントを送ってくれるということが、どこか驚きであり、少々くすぐったく思えた。




「出会いは悪かったが、今後は仲よくしようなのだ。あと、機会があれば戦ってほしいのだ!」




 そう言って渡してくれたのはナイフケースだった。




「ルナはいつも抜き身の状態で隠し持っているので、ちょうどいいと思ったのだ。ときには武器を装備していると周囲に見せておくのも、自衛のひとつなのだ」


「……ありがと、って言っておいてあげる。でも、パパにいろいろ暴露したのは許してないんだからね。今度、ぎったんぎったんにしてあげるから、覚悟しておきなさい」




 遠回しに、一度くらいなら戦ってやると言うと、ナオミが満面の笑みを浮かべた。




「楽しみなのだ!」




 腹が立つこともあるし、いろいろ思うことはあるが、どうやらルナはナオミのことを嫌いになれないようだった。


 レダの甘さが移ったかもしれないと思えば、それはそれでいい。


 ただし、けじめとして、痛い目に遭わせてやると内心思っているのが、実にルナらしかった。




「僕からは、これだよ」




 続いてユーリが箱に入ったサンダルを渡してくれた。




「うわぁ、かわいいんですけど!」


「これから暑くなるから足元を涼しくしてもいいかなって。普段使いもできると思うし」


「ユーリまで、ありがと。大事にするわ」


「……うん。そう言ってくれると、僕も嬉しいよ」




 レダの手伝いをしていくうちに、自然と友好を深めたユーリ。


 歳が近いこともあり、休憩中に他愛ない話をすることも多い。


 ちょっとマイペースで、回復魔術を使うことがとくにかく好きであるという癖のあるユーリと、なんだかんだでうまくやっているルナだった。




「私からも一応だが、あるぞ。感謝するといい」


「あんたはプレゼントを渡すときも偉そうね」




 胸を張って紙袋を差し出したネクセンにルナは苦笑した。


 中身はハンカチとタオルだった。


 ネクセンらしい、シンプルなものだ。




「ディクソンを手伝うとなにかと手が汚れるからな。感謝するといい」


「……ありがと」


「ふん。普段からそう素直ならまだかわいげがあるものだがな」


「余計なお世話よ! あたしはパパの前だけでかわいければいいんだから!」


「この猫かぶりめ!」


「猫なんて被ってないわ! 素のあたしだってちゃんと見せてますー!」




 初対面のときから、なにかと言い合うことが多いネクセンのことも嫌いではない。


 当初は、レダと違い、高額な治療費を請求するがめつい治癒士だと思っていたが、意外と人のいい一面も見せたりするので驚きもした。


 とはいえ、治癒士という立場ゆえに偉そうな態度のネクセンに、ルナが突っかかることが多い。




 ただし嫌っているわけではなく、もっとパパみたいになりなさいよ、という感情からだ。


 ネクセンとしては大きなお世話なのだろう。


 ふたりはよく口喧嘩している。


 年齢は十も離れているのに、まるで歳の近い友人のようだった。




「……みんな、あたしのためにありがと」




 こんなに自分の誕生日を祝ってもらえたのは初めてだった。


 辛いこともあったが生きてきてよかったと思える瞬間だった。


 涙が溢れてくる。


 感動して泣いてしまうなんて恥ずかしかったので、腕で涙を拭うが、次から次に溢れてくる。




 涙で顔を濡らしたルナは、みんなにもう一度、感謝の言葉を伝えるのだった。




「みんな、ありがと!」






 ◆






 喜びで涙を流すルナが、泣き顔を見られたくないのか、レダの胸の中に飛び込んできた。


 そんな娘を愛しく思い、レダは彼女の頭を優しく撫でる。




(たくさん辛い思いをしたルナには幸せになってほしい。いや、俺が幸せにしないとな)




 家族として、ルナのことを精一杯幸せにしよう。


 そう決意するレダだった。










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