35「ルナの誕生日」②




「ご、ごめんね、こんなによくしてもらったのって、あたし、初めてだから……柄にもなく泣いちゃった」




 泣いてしまったことを照れたように舌を出して見せるルナに、レダは笑みを浮かべて言う。




「泣くのはこれからだぞ?」


「え?」


「プレゼントを用意していたのは俺だけじゃないってことだよ」


「……うそ」




 驚き呆然とするルナの前に立ったのは、ヒルデガルダだった。




「私からももちろんあるぞ」




 そう言ってエルフの少女がルナに手渡したのは、シンプルだが美しいナイフだった。




「切れ味抜群、そして美術品としても一級品の業物だ。使わずとも観賞用にしてもいいぞ。ナイフ使いのルナにと思ったのだ」


「――やだこれ、やばい! 超嬉しいんですけど! ありがと、ヒルデ!」


「ふふん、喜んでもらえたのであれば私も嬉しいぞ」




 ヒルデガルダの読み通り、ナイフ使いのルナは業物のナイフに喜んだ。


 両手で大事そうに抱えると、芸術品とも言える刀身をうっとりと眺めている。


 そんなルナの反応に、ヒルデガルダも満足そうだ。




「わたくしからもありますわ」




 そう言って一歩前に出たのはヴァレリーだ。


 彼女の手にあるのは、洋服だ。それも、上から下まで一式だった。




「ルナちゃんに似合うと思った洋服一式をですわ。やはり女の子ですから、おしゃれはたくさんしないといけませんもの」


「ありがと……でもいいの? ライバルのあたしが、かわいくなっちゃったらまずいんじゃない?」


「あらあら、そんな心配無用ですわ。わたくし、負けるつもりはありませんので、ご心配なく」


「ふーん、上等よ!」




 礼とともに挑発するルナに対し、ヴァレリーは落ち着いた大人の対応を取った。


 レダを巡るライバルであるふたりだが、なんだかんだといって仲がいいため、険悪な感じは微塵もない。


 むしろ、親しいゆえの態度だと思えた。


 ゆえに、見守っている人たちも苦笑しているだけである。




「……でも、ありがと。大事に着るわね。そしてかわいくなってパパをメロメロにするから!」


「うふふ、わたくしも負けませんわよ」




 微笑み合うふたりは、やはり仲がよさそうだった。




「おねえちゃん、わたしもプレゼントあるよ!」




 満面の笑みで紙袋を手渡したのは妹のミナだった。




「ありがと、ミナ。開けてもいい?」


「うん!」




 妹の許可をもらい、紙袋を開封すると、中には手作りのシュシュが入っていた。


 シルバーブロンドの髪をいつもアップにしているルナは、普段使いができる妹のプレゼントに顔をほころばせた。




「嬉しい! ありがと、ミナ! もうっ、あんたって最高の妹だわっ!」


「お、おねえちゃん、はずかしいよぉ」




 ミナからのプレゼントに歓喜したルナが、妹の華奢な体を抱きしめて頬ずりを始める。


 くすぐったそうに、そして気恥ずかしそうにする妹が愛しく思えてならない。


 少し前まで、妹とこんな幸せな時間を過ごせるとは、夢にも思っていなかっただけに、今のルナの心は喜びで溢れていた。




「さっそく、つけるわ。――どう?」


「かわいいよ! おねえちゃん!」


「ふふふっ、でしょ?」




 さっそく、身につけている髪紐とシュシュを交換する。


 妹らしいかわいいシュシュを身につけると、ミナだけではなく、レダも、みんなも口を揃えてかわいいと言ってくれる。


 それが嬉しくて、どこかくすぐったくて、つい口元が緩んでしまうルナだった。




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