34「ルナの誕生日」①
リンザの襲来から数日が経ち、待ちに待ったルナの誕生日が訪れていた。
いつも世話になっている宿屋の食堂を貸し切りにした夜。ルナと親しくしているいつもの面々が集まっていた。
テーブルには色とりどりの食事が乗っている。ルナの好きな魚料理が中心だった。テーブルの真ん中には大きなケーキが飾られている。
レダとミナはもちろんのこと、生活を共にしているヒルデガルダ、リッグスとメイリン。友人としてヴァレリーが。治癒士のユーリとネクセンも、仕事で親しくなったので参加してくれている。
出会いこそ最悪だった勇者ナオミも、明け透けな性格がいい方向に影響し、口喧嘩しながらルナとうまくやっていたのでもちろん参加だ。
ミレットは仕事のため、なにかと顔を合わせている領主ティーダ家族も諸事情から不参加だった。
しかし、その代わりに誕生日プレゼントだけは事前に送ってくれてあった。
準備が整うと、部屋を薄暗くした。
続いて、ルナを祝う声をみんなで揃える。
「お誕生日おめでとう!」
「ありがとっ!」
ろうそくが十五本立てられたケーキに勢いよく息を吹きかけるルナ。
ろうそくの火が消えた瞬間、みんなの拍手が響き渡り、部屋の明かりが灯る。
みんなに囲まれているルナはちょっと照れたように微笑んでいた。
「よーし、続いて乾杯だ!」
レダが声を上げると、それぞれがグラスを持つ。
一同を確認したレダは、小さく咳払いをすると、父として家族としてルナを祝う。
「ルナ、改めて誕生日おめでとう。これからの日々がルナにとってよい日々になることを祈っているよ」
「ありがと、パパ。でも、プロポーズしてくれてもよかったのにぃ」
「……乾杯っ!」
「あーっ、ごまかしたぁ!」
レダの音頭に、みんなが口々に「乾杯!」と杯を掲げていく。
レダとリッグス、そしてナオミが競い合うようにビールを一気飲みする。
本日から成人となり、酒も解禁になったルナはヒルデガルダとヴァレリー、ユーリとネクセンとワイングラスを傾けて大きな笑みを浮かべている。
ミナとメイリンはジュースだが、一口飲んで笑顔だった。
「さぁ、プレゼントだ!」
ビールを煽ってテンションをいつもよりも上げたレダが、プレゼントを取り出した。
レダの手には小箱が載っており、それをルナへと渡す。
「うわぁ、パパありがと!」
小箱を開けて喜んだルナが、そのままレダに抱きついた。
中身は銀のペンダントだった。
「ねえ、つけてくれる?」
「もちろん」
背を向けたルナに手を伸ばし、ペンダントを首に回す。
普段遣いとしてもちろん、邪魔にならないシンプルな物だったが、子供っぽさがなく大人びたルナにはよく似合っていた。
「ふふっ、これって結婚首輪かしら?」
「違います。誕生日プレゼントです!」
「もうっ、パパのいじわるっ」
わざとらしく拗ねてみせるルナの頭を撫でながら、各種の耐性加護が施された魔導具であることも説明した。
リッグスの知り合いのドワーフに頼んで作ってもらったオーダーメイドである。
「お守りって意味も兼ねているんだ。だから、ついでってわけじゃないけど、ミナにも」
「えぇっ、わたしにもくれるの?」
「誕生日はルナだけど、せっかくだから姉妹でお揃いってことで」
「おとうさんありがとう!」
はにかみお礼を言うミナの頭も優しく撫でながら、レダは懐から小さな袋を取り出した。
「誕生日の主役にはもうひとつプレゼントだ」
「そんな、いいのに」
「家族なんだから遠慮しないでほしいな」
「……パパったら……もう、ありがと」
プレゼントを受け取り、嬉しそうに瞳を揺らしてルナが包装を解くと、細身のシンプルなブレスレットが現れた。
「これって」
「これは本当にただのアクセサリーなんだけど、ルナに似合うかなって。うん、よく似合ってるよ」
普段から大人びた言動のルナは、身だしなみにこそ気を使っているものの、アクセサリーの類を欲しがったりしないことをレダは気にしていた。
オシャレに気を使う年頃なのに、もしかしたら自分に気を遣っているのかもしれない、と。
決して生活に苦しいわけではないが、精神年齢が高いルナだからこそ、いろいろ気を使ってくれているのではないかと考えた。
これを機にもっと、年頃の女の子らしくなってほしいと思う。
たまには、アクセサリーが欲しいと駄々をこねて困らせて欲しい。そんな願いを込めたプレゼントだった。
「……パパ、ありがと。本当に、嬉しい」
そんなレダの心遣いが伝わったのか、お礼を言うとルナが泣き出してしまった。
涙を流す娘を優しく抱きしめ、彼女が泣き止むまで背を撫で続けるのだった。
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