32「復讐のお誘い」②
楽しそうに笑うリンザは、ニュクトに問いかける。
「私はレダに嫌がらせをすればいいのね?」
「はいー。あの人は調子にのっていますから、一度どん底に落としてあげましょー」
「そうね、そうよね。そうすれば、私とヨリを戻したいって泣きついてくるはずよね」
「そのとーりですー」
「でも」
「はいー?」
リンザは疑問に思った。
ニュクトの存在は自分にとって都合がいい。
しかし、彼女がなぜレダに復讐しようと考えているのかわからなかった。
「どうしてあんたはレダに?」
「……隠していたわけではないんですー。実はですねー、私たちのパーティーリーダーのジールとはー、少しの間ですが付き合ってたんですー」
「あら、そうなの?」
「はいー。でもー、ジールはレダのせいで変わってしまいましたー。挙げ句の果てにー、盗賊になってしまい死刑になりましたー。それもすべてー、レダのせいですー」
(自業自得じゃないって、言わないほうがいいのよね。せっかくの駒を怒らせてもいいことはないから、同情するフリでもしておきましょう)
「それは、辛いわね。レダは私以外にも誰かを不幸にしていたのね」
「……だからわたしはー、レダからすべてを奪ってやりますー。そのあとー、あなたがレダをどう利用してもしりませんー」
「意外ね。殺してやるって言わないのね。てっきり、恋人の復讐をしたいのかと思ってたわ」
そんな疑問に、ニュクトは暗い笑みを浮かべて言った。
「……殺すとか生ぬるいですー。あいつはー、いきて苦しめばいいんですー」
「つまり、私にいいように利用されて苦しんでいる姿が見たいってことね?」
「はいー。どうせー、あなただってー、レダが治癒士になったから利用できると思っているだけですよねー? 愛情もなにもないでしょうー?」
「……あなたにはバレているようね」
「もちろんですー」
リンザは内心、侮っていたニュクトへの評価を改めた。
レダたちでさえうまく騙していたというのに、自分の本心を暴いた彼女は優秀だと判断したのだ。
「ふふふっ、そのとおりよ。レダなんて、治癒士になったらからちょっとくらいは金稼ぎをしてほしいってだけで、私くらいの美人にはもったいないのよ」
「おっしゃるとおりですー」
「最近は運がなくて借金まで背負っちゃったけど、あいつに肩代わりさせて、しばらく遊ぶ金を手に入れたら、もう用はないわ」
リンザはなにも永遠にレダを利用しようとは思っていない。
いずれ自分も結婚し、家庭を持つだろう。
だが、その相手はレダではだめだ。むしろ、レダの存在が男を寄り付かなくさせる原因になる可能性もある。
金のなる木を手放すのはもったいないが、断腸の思いで、しばらくの間利用するだけで我慢することにしていた。
それでも搾り取れるだけ搾り取ってやろうと考えている。
ニュクトの復讐に貢献できるよう、最後は手酷く振ってやろうと考え、嗜虐的な笑みを浮かべてしまう。
(そういえば……レダに惚れているとか言った馬鹿女は領主の妹だったわね。うふふっ、あの女を利用して領主に近づくっていうのもありよね。領主を利用できれば、レダをこの町から追い出すことだってできるでしょうし、うまくいけば……私が領主の夫人になることだってできるわ)
リンザにとって男は、いや、他人は利用するものだ。
今までそうやって生きてきた。
自分ほどの美貌があるのだから、それをしても許されると信じて疑っていない。
ゆえに、今回もうまくいくと確信があった。
レダから金を搾り取り、領主に取り入る。
その後、待っているのは、貴族としての贅沢な日々だ。
「いいわ、いいわよ。ニュクトだったわね、私はあんたに協力してあげる。私たち、いい友達になれると思わない?」
「うふー、もちろんですー」
楽しそうにふたりが嗤う。
どちらも自分たちの計画が失敗するとは微塵も思っていないようだった。
「それで、どこからはじめるつもり?」
「まずー、この町の冒険者ギルドがレダのために用意している診療所をー、ダメにしちゃいましょうー。ついでにー、レダの居場所を奪いたいのでー、この町にモンスターを呼び寄せてしかけましょうー」
「なによそれ!」
「えー、不満ですかー?」
「違うわよ! すごく面白そうじゃないの! レダが絶望する顔が見れそうね!」
「うふー、そう言ってくれると思ってましたー」
あまりにも非道な計画にも関わらず、楽しそうなふたりを止める人間はここにはいない。
彼女たちは、レダと、この町を苦しめるために、行動に移るのだった。
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