31「復讐のお誘い」①



「くそっ、くそっ、くそっ!」




 リンザは、裏路地で壁を蹴って苛立ちをぶつけていた。




「わざわざこんなクソ田舎まできてやったのに! なんなのよっ、あの態度っ!」




 リンザは屈辱に塗れていた。


 好きでもない男に媚びを売り、いい思いをさせて、金をせしめようとしていたのに、寄ってたかって邪魔をされた。




「あのガキも私の邪魔をして! もう少しでレダから金を奪えたのに!」




 ルナというレダの娘を名乗った子供さえいなければ、レダに借金を肩代わりさせることもできていたはずだ。


 それどころか、レダの今後の稼ぎだって自分ものだった。




「あの領主の妹もばっかじゃないの! なによ、レダを慕っているとかムキになって! みっともないったらありゃしないわ!」




 二度も頬を叩いた女にやり返すことができなかったのも気に入らない。


 手鏡で確認すると、自慢の美貌が赤く腫れている。


 貴族じゃなければ、殺しいてやりたいと殺意を覚えるほどリンザは怒りを覚えていた。




「どいつもこいつも私のことを邪魔をして! とくにレダよ! なにが私のことを好きじゃなかったよ! あんな、恥をかかせて、絶対に許さない!」




 止める人間がいないため、リンザは唾を飛ばして暴言を吐き続ける。


 確かに、リンザという女性は容姿が人よりも優れているかもしれない。


 だが、今の彼女の顔は醜く歪んでいて、とてもじゃないが美人とは言えなかった。




「荒れていますねー」


「誰よ! 放っておいて!」




 声をかけてきた人影を睨みつける。




「はじめましてー、ではないですよねー。わたしのこと覚えていますかー?」


「間延びした声がむかつくわね……そういえば、あんた、レダの」




 リンザは声を掛けてきた人物に見覚えがあった。




「はいー。元パーティーメンバーだった魔術師のニュクトですー」




 魔術師ニュクトと名乗った人物は、とんがり帽子をかぶった二十歳ほどの女性だった。


 どこか子供っぽい印象を覚える子だ。


 薄い紫色の髪を背中まで伸ばしているせいで、顔はあまりよく見えない。


 だぼっとした白いローブを羽織っているせいで、どこか野暮ったさも感じる。




「それで? レダの元仲間がなんだっていうのよ?」




 リンザの問いかけに、ニュクトの口元が笑みを作った。




「実はですねー、レダに復讐したいんですー」


「復讐ですって?」


「はいー。よかったら、お手伝いしてくれませんかー? もちろんー、報酬はー、たっぷりお出ししますー」


「……その話、詳しく聞かせなさいよ」


「もちろんですー」




 にやり、と笑うリンザは、神は自分を見捨ててはいなかったと感謝した。


 自分を馬鹿にしたレダに復讐できる。


 しかも、報酬までもらえるのだ。


 実に、都合のいいことではないか。




「レダと、あのムカつく女たちに復讐できるなら、どんなことでも喜んでやってあげるわ」


「ふふふー、そう言ってもらえると思ってましたー」






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