29「ヴァレリーの怒り」②
「あんたに関係ないでしょ! これはっ、レダと私の問題じゃない!」
「いいえ、そんなことはありません! これは、この場にいるわたくしたちの問題ですわ」
「なに言っての、あんた? 全然関係ない女は引っ込んでなさいよ!」
「そうはいきませんわ。あなたのような愚かな人間はレダ様にふさわしくありませんもの」
「さっきから好き勝手に言いやがって!」
二度も叩かれた恨みを返そうと、リンザが腕を上げる。
だが、ヴァレリーは臆することなく、リンザを睨みつけたまま動かない。
リンザの手が振るわれる。しかし、ヴァレリーに届くことはなかった。
「この人に暴力は許さないからな」
レダはリンザの手を掴んで警告する。
暴言に続き暴力まで振るわせるつもりはなかった。
ヴァレリーを守ったレダに、リンザが激昂する。
「レダ! あんた、私が殴られても見ていただけなのに、この女を守るなんて頭おかしいんじゃないの!?」
「もし、ここにいる誰かに一度でも暴力を振るったら、俺はお前を絶対に許さない。覚えておけ」
「――っ、ああ、そうですか! ていうか、この女も何様よ! 私がレダにふさわしくないとか、なんであんたが決めるんだっていうの!」
「わかりますとも。あなたはレダ様に散々お金を貢がせた挙句、稼ぎがなくなるとわかるとあっさり捨てました。レダ様とお付き合いしている時点で、複数人の男性とも付き合っていましたよね。それに、現在、相当の借金があることも存じています」
「……な、な、なんで、それを」
「調べましたので」
あっさりと言い放ったヴァレリーに、レダも驚いた。
まさか自分の知らないところで、色々調べていたとは思ってもいなかったのだ。
「……あんた本当に調べちゃったのね」
そんな呟きをルナがしているのが聞こえた。
「あなたのような不誠実な人が、どのような理由でレダ様とやり直したいとおっしゃるのですか? わたくしには、ただお金が欲しいからとしか思えませんわ」
「――それは誤解よっ! 私は、レダのために冷たく突き放しただけよ! ほら、そのおかげで、こうやって治癒士として成功してるじゃない! 感謝されたってバチは当たらないわ!」
「百歩譲って、あなたの言う通りだったとしても、複数の男性と付き合っていた言い訳はどうするおつもりですか?」
「それは、その」
口ごもるリンザ。都合のいい台詞が浮かんでこないようだ。
すると、彼女は再び激昂した。
「私のような美人に男が群がってくるのは自然のことなのよ! いい女っていうのはね、男の求めに応えるべきじゃないの!? あんたね、自分に魅力がなくてモテないからって僻むんじゃないわよ!」
「それがお答えですね?」
「そうよ! 別にいいじゃない、結婚して浮気したわけじゃないし、私をつなぎとめることのできなかったレダが悪いのよ」
勢いだけで好き勝手言うリンザに、この場にいる全員が不快な表情をした。
一番幼いミナでさえ、リンザを見る目は冷たい。
「……ここまでくると図々しいですわね。わたくしは知っていますわ。あなたは、結局、その男性たちにも捨てられていますわね?」
「……それは」
「さすが素晴らしい女性は男性の求める通りに、綺麗に捨てられますのね。そうそう、あなたはその男性たちに借金も押し付けられたのでしたね。ご自分の借金に男性たちの借金まで、本当に都合のいい女性ですこと」
「…………っ、この」
「もっと言ってさしあげましょう。この町に来た理由は、レダ様からお金を奪おうとしているのはもちろん、借金取りから逃げてきたそうですわね」
「だからなんだって言うの!」
「あなたが借金をした商家は我が家と関わりがある家ですので、この町にいることをあとでお伝えしておきますわ。よかったですね。これでこの町でも借金の返済ができますわよ」
ヴァレリーの容赦ない言葉に、リンザが蒼白になった。
言葉通りなら、借金取りから逃げてきたにも関わらず、このアムルスでも借金に追われると言うことだ。
つまり、逃げ場などないのだ。
「……さっきからいい気になって! あんたにどんな権利があって私のことを調べたのよ!?」
「わたくしはレダ様を心からお慕いしています。あなたのようなレダ様にふさわしくない害虫が近づかないように、たとえ恥ずべきことでもしてみせましょう」
憤りを見せるリンザに、ヴァレリーははっきりと告げた。
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