28「ヴァレリーの怒り」①
「……呆れるよ」
「なんですって!?」
慰謝料などと言い出したリンザに、レダはうんざりした声を出した。
「君には散々お金を渡してきたじゃないか。それなのに、まだ俺から金を奪おうっていうのか?」
「仮にも恋人ならお金くらいくれたっていいじゃない!」
「今は違うだろ。それに、以前だって恋人じゃなかった。俺はただの金づるで、君には他に男がいたんだ。そんなに金が欲しいなら、その男に都合してもらえばいいだろ」
レダは自分が情けなくなる。
いくら寂しかったとはいえ、こんな女と付き合っていたなど黒歴史以外他ならない。
「――あんたねぇ! 人が下手に出てればいい気になって! 捨てたあんたとわざわざやり直してあげるって、王都から足を運んであげたのよ! あんたは、ただ喜んで受け入れればいいのよ!」
「不愉快なくらい迷惑だから、とっとと王都に帰ってくれ」
傲慢すぎる訴えを、レダは一蹴した。
この言い方で、自分が喜んで受け入れると本気で考えているのであれば、ある意味すごいとしか思えない。
「あんたあたまおかしいんじゃないの!?」
「……お前が言うなよ」
「私みたいないい女を逃したら、どれだけ損すると思ってるの!?」
これだけ好き放題言える性格のリンザを、レダはある意味羨ましくなる。
きっと、些細なことで悩んだりしないだろう。
すべてが自分の思うまま、そんなポジティブな思考をしているに違いない。
「ほら、黙りこくって、反論できないじゃない!」
呆れて言葉もないことを、都合のいい解釈をしたリンザ。
彼女は胸を張って高笑いをし始めるが、レダだけではなく、この場にいる誰もが彼女に冷たい視線を向けていることに気づいていない。
ひとしきり笑い続けたリンザは、思い出したように、ルナとミナに視線を向けると、嫌な笑みを浮かべた。
「あ、言っておくけど、小生意気なガキなんていらないから捨ててもらうからね」
「お前っ」
「まず慰謝料を払って、このガキどもをどこかに捨ててるところからはじめてちょうだい」
「――いいかげんにしろ!」
自分だけを好き勝手に言われるだけなら平気だった。
特に真面目に相手にしていなかったので、痛くも痒くもない。
しかし、娘のことは別だ。
よりによって、大切な娘たちの前で、自分に子をいらないから捨てろと言ったのだ。
なんという傲慢で、独善的な言葉だ。
いくら、レダがリンザとやり直すつもりが微塵もないとはいえ、この言葉は聞き流せなかった。
愚か者の戯言だとしても、言っていいことと悪いことがある。
レダは、火のついた感情に任せて彼女を叩こうとした。
が、激昂したレダよりも早く、動く人影があった。
――ぱぁんっ。
頬を打つ音が部屋に木霊する。
「な、ななな……」
「いい加減にしてください!」
我慢できずに平手打ちをしたのは、ヴァレリーだった。
「あっ、あんたねぇっ! なにするのよ!」
「少しは目が覚めましたか?」
「はぁ? なにわけわからないこと言ってるの? なんで私が殴られないといけないのよ!」
――ぱぁんっ!
再び、ヴァレリーがリンザの頬を叩く。
「あなたがレダ様の元恋人であろうと、なかろうと、レダ様が心から大切にしているミナちゃんとルナちゃんを捨てろなどと言うことは、決して許せませんわ!」
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