27「望まない再会」②
「何事だ?」
「もめてるの?」
レダの背後には、いつの間にか起き上がったネクセンとユーリがいた。
「さあ? だけど、俺を知ってるみたいだ」
「この町でお前を知らん者はいないだろう」
「とりあえず、用件を聞いてくるよ」
そう言い残すと、レダは受付に顔を出す。
「ミナ、ヴァレリー様、どうかしましたか?」
「おとうさん、だめ!」
「レダ様、こちらへきてはいけません!」
「え?」
突然、来るなと言われてももう遅かった。
レダは彼女たちの言葉の意味がわからず困惑する。
すると、
「レダ! なによ、いるじゃない!」
自分の名を呼ぶ女性の声が聞こえ、顔を向ける。
そして、絶句した。
「――まさか、リンザ?」
「こんなところにいたのね、探していたわよ、レダ!」
震える声で、かつての恋人の名前を呼ぶレダに、リンザは笑顔を浮かべた。
とてもじゃないが、金の切れ目が縁の切れ目だとばかりに捨てた人物の反応だとは思えない。
「どうして、ここに?」
「あなたに会いに来たに決まっているじゃない」
「俺に? どうして今さら」
本当に今さらだ。
かつてのことを蒸し返すつもりはない。
彼女に騙されて渡していた金も、いい勉強料だったと割り切ることにしていた。
それなのに、今になって、アムルスの町の生活が順調なこの時に、なぜ現れたのだと思う。
「私ね、反省したのよ。どうしてあなたのことを捨ててしまったのかって」
「もう終わったことだろ」
「そんな冷たいこと言わないでよ」
(――鬱陶しい)
作り物の笑顔を浮かべたまま、こちらに手を伸ばして触れようとしてきたリンザの手を避けて、レダは嫌そうな顔をした。
(反省とか意味がわからない。好き勝手したくせに、今さら何を反省してるっていうんだ。そもそも、それを俺に言うためにわざわざ辺境まで?)
突然すぎる元恋人の登場を、なにか企んでいるのではないかと疑わずにはいられない。
少なくとも、この再会は不自然だった。
「今さら、何の用だ?」
「私ね、レダともう一度やり直したいと思って追いかけてきたの」
「――はぁ?」
「私も悪かったけど、レダだって悪いのよ。あんな、ジールだっけ? たいしたことのない冒険者に小間使いにされて、上に上がれる見込みがなかったんだから」
「……言いたいことはそれだけか?」
「それに、隠し事をしていて男女がうまくいくわけないでしょう」
「なんの話だ?」
「治癒士よ! あなた冒険者だっていいながら、実は治癒士だったなんて。どうしていってくれなかったの?」
「――ようは金目当てか。もういい、これ以上話すことはないから帰ってくれ」
レダは内心呆れていた。
どこで自分のことを知ったのかわからないが、わざわざ王都から時間をかけて辺境のアムルスまで金目的でやってくるとは。
「そんな誤解よ! お金なんてどうだっていいの。私はただ、治癒士はなにかと大変だって聞いたから、お手伝いしたくて」
「……はぁ。手伝いならもういる。ここにいるみんなが、俺の大事な仲間だ。リンザ、君は俺に必要ない」
「――な」
リンザの訴えをレダは一蹴した。
あからさまに嘘だとわかる申し出を受け入れる必要は微塵もなかったのだ。
断られると思っていなかったのか、リンザは間抜けに口を開けて、唖然としている。
「……ねえ、さっきからなにして――パパ、このおばさん誰?」
「患者か? なら早く奥へ……いや、怪我の類はしてないようだな」
そんなとき、奥からルナとヒルデガルダが出てくる。
「――おばっ、このガキ! お前こそ誰よ!」
「あたしはルナ・ディクソン。レダ・ディクソンの娘で、そこにいるかわいいミナ・ディクソンの姉よ! ていうか、この町であたしたちのこと知らない人っているのね」
「れ、レダに子供がいたの!?」
おばさん扱いされて激昂したリンザは、ルナの娘宣言に目を丸くすると、レダに掴みかかった。
「聞いてないわよ! 子供とかって!」
「別に君には関係ないだろ。さっき、君が詰め寄っていた子も、俺の大切な娘だ」
「子供がいたのに私と付き合っていたって言うの!?」
ヒステリックに騒ぐリンザに、レダは鬱陶しいとばかりに掴まれていた彼女の手を払う。
「あれ? なんかパパ、態度冷たくない? ていうか、本当にこのおばさん誰なの?」
リンザが何者かわかっていないルナが首を傾げている間にも、リンザは騒ぎ続けていた。
「私を騙してたの!?」
「……君だけには言われたくないよ。もういいだろ、ここは冒険者ギルドで、治療を必要とする人たちが来る場所だ。用がないならとっとと帰ってくれ」
「バカ言わないで! 用があるから、こんななんにもないつまらない辺境にわざわざ来てやったんじゃない!」
つまらない辺境、という言葉に、ヴァレリーの頬が引きつった。
「レダ、私とやり直させてあげる」
「――は?」
「もう一度私の恋人として尽くさせてあげるわ」
リンザの態度が一変した。
最初こそやり直したい、反省したといっていたのに、今はやり直させてあげる、だ。
レダは呆れてなにも言えない。
「ちょっとおばさん! あんたなに言ってんのよ!」
「ガキは黙ってなさい! ったく、しつけのなってないガキね。レダが親ならこんなものかしら。そうそう、まず私に謝罪をしてもらうわ。子供がいることを黙っていたんだから。あと、慰謝料も払ってもらうからね!」
なにをどうすればそのような結論に至るのか理解できず、レダは唖然とする。
周囲の人間も、突然慰謝料請求をし始めたリンザに言葉を失うのだった。
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