26「望まない再会」①



「……今日も患者は多いな」




 すでに百人以上の患者が冒険者ギルドを訪れている。


 依頼中に負傷した冒険者をはじめ、町の住民たち、町のために作業している人たちも、患者の中には多い。


 ときには負傷して動けない人のために、レダたちが現場に赴くこともある。




 今までは、ポーションを買うか、医者にかかることで治療していた人たちが、治療士が安い価格で治療してくれることから集まってくるようになっているのだ。


 そのおかげで、治療費こそ安くても、全体的に収入はよい。




 最近は、近隣の町や村からも治療に来てほしいという要望があるらしく、どうしたものかと冒険者ギルドが頭を悩ませているという。




 レダは、領主のティーダから、別の領地からレダを引き抜こうとする動きがあると聞いている。


 良心的な価格で治療を行う治癒士はやはり魅力的なのだろう。


 ただ、他の領地がアムルスのように協力的とはかぎらない。


 下手をすると、いいように使い潰されてしまう可能性もあるらしい。




「そういえば、ナオミはどうしているんだか」




 ここにはいない勇者ナオミ・ダニエルズのことを考える。


 彼女は、割とレダたちに馴染んでいた。


 最初こそ、ルナを狙い、レダと戦いもしたが、彼女はなんというか明け透けな性格のため、悪意を感じない。


 天真爛漫な面も持つため、そう簡単に嫌えないという部分もある。




 いざこざのあったルナは若干警戒しているものの、それでも会話はあるし、ときには口喧嘩しているところも目にすることがある。


 それでも険悪になっていないので安心はしている。




 そんなナオミは、定期的に体を動かさないとストレスが溜まるらしく、冒険者テックスに面倒をみてもらってモンスター狩りをしている。


 冒険者ギルド側も、勇者が手伝ってくれることに反対をするはずがなく、両手放しで喜んでいるらしい。




 ときにはナオミも治療関連で活躍してくれる。


 昨日などは、怪我人を担いで飛んできてくれた。


 おかげで大事には至らなかった。




 出会いこそ悪かったが、レダはナオミに感謝してもいる。


 ルナとミナが囚われていた裏組織を潰してくれたのは他ならぬ彼女だったからだ。


 できるなら、今後とも良い関係を築いていきたいと思う。




「……ああ、疲れた」




 最後の患者を見送ると、すでに夕方だった。


 治癒士が三人なので、ひとりひとりの労力は分散されているものの、疲労はある。




「お疲れさん」




 患者様のベッドの上で、倒れているのはネクセンとユーリだ。


 ふたりとも魔力がなくなってしまったようで、疲れているのがよくわかった。




「……お前はまだ魔力的に余裕があるみたいだな」


「……さすが師匠」


「ふたりが手伝ってくれたからだよ」




 実際そうだ。


 ふたりがいなければ、患者を全員治療できていたかわからない。




(やっぱり、治癒士ひとりじゃできることに限界があるな)




 レダはネクセンとユーリに感謝していた。


 最初こそ、今まで高い治療費を請求していたふたりをよく思わない人もいたが、一生懸命人々を治療している姿を見て、悪く言う人間はいなかった。


 彼らがこの町に本当の意味で受け入れられるのも時間の問題だろう。




 魔力的に限界のふたりをそのままに、レダは片付けを始める。


 すると、受付のほうでなにやら大きな声が聞こえてきた。




「なんだ?」




 受付にはミナとヴァレリーがいる。


 このふたり相手に揉めるような人間はいないと思っていただけに、気になって受付に向かう。


 すると、




「ここにレダ・ディクソンっているでしょ。出しなさいよ」




 どこかで聞いたことのある声が、自分の名前を呼んでいたのだった。






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