22「おかえりなさい」
「パパ、お帰りなさい。楽しんできたかしらぁ」
「る、ルナ!?」
「私もいるぞ」
「ヒルデ!」
「おとうさん、お帰りなさい!」
「ミナまで!?」
テックスと別れ娼館から帰路についたレダを宿屋の前で待っていたのは、大切な家族たちだった。
「ど、どうして、寝てたんじゃなかったの?」
「寝てたわよ。でもね、起きたら夜中なのにパパがいないし、酔い潰れているかと思って食堂に行ったらお開きしてるし!」
「そこで朝の仕込みをしていた店主殿にレダの行方を訪ねてみたのだ」
「テックスおじさんとおでかけしたんだね」
「しーかーもー! 娼館にっ!」
まずい、とレダは心の中で絶叫した。
まさか娼館にいったことを娘たちにバレてしまうという大失態をするとは思わなかった。
(ていうか、リッグスさん! なんで正直に話しちゃうんですか! 飲み屋にいったとか、他に言いようがあったはずなのにぃぃいいいいいい!)
「パパ。別にあたしたち怒ってるわけじゃないの。朝帰りしなかったし、気になんてしてないわ――なんて、言うとでも思った?」
「い、いいえ」
宿屋の前で仁王立ちするルナから発せられる威圧にレダは屈しそうだった。
そんなレダにヒルデガルダが近づき、くんくん、と匂いを嗅いだ。
「……レダから知らない女の匂いがする」
「へぇ……ふぅん」
「ひぃ、怖いっ!」
ヒルデガルダの嗅覚がそこまでよかったのかという驚く暇さえ与えられず、鬼のような形相を浮かべたルナにレダが後ずさる。
「パパのはじめてはあたしのものだったのに!」
「いや、私のものになるはずだった!」
「なに言ってんの、君たち!?」
「どうでもいいわよ! そんなこと! うわーん! パパの童貞を奪った雌豚はどこの誰よぉ!」
「さあ、レダ! 言うんだ! 私とルナで血祭りにあげてやろう!」
「奪われてないから! ――あ」
つい、反射的に叫んでしまったレダは、己の失態を悟る。
娘たちの前で、童貞だと言ってしまったようなものだ。
「なーんだ! そうならそうと最初っから言ってくれればいいのにぃ!」
「ふふふ、そうか、まだレダは童貞か。よしよし」
にやり、と少女ふたりが邪悪な笑みを浮かべた。
まるで獲物でも狙うような目つきに、レダは冷や汗をかく。
(いや、それ以前に、どうして俺に女性経験がないことを知って――)
まさか、童貞だということが娘たちにバレていたのか、と背筋が冷たくなる。
ルナとヒルデガルダは、まるでそんなレダの心中を見抜いたように、舌を舐め、微笑んだ。
「パパがへたれでよかったー」
「うむ。わざわざ娼館まで足を運び、女遊びしなかったことには賞賛を送ろう」
にこにこしているふたりが怖い。
なにか企んでいるような目で、レダを見ている。
「うふふふ、パパにはもう少し清い体でいてもらわないとね。そう、具体的に言うと、あたしが成人するまでね」
「私はすでに立派な大人だ。この意味がわかるな、レダ?」
「ふ、ふたりともなにをいってるのか、わからないなー、なんて」
冷や汗を流しながら、レダは必死に彼女たちの言葉の真意に気づかぬふりをした。
「ふーん、パパがそういう態度ならいいわ。今は、ね。うふふふ、おやすみなさーい」
「獲物を狩るのは得意だ。楽しみにしておくといい」
ルナとヒルデガルダはそう意味ありげな言葉を言い残すと、宿の中に戻っていく。
残されたレダは、自分が童貞であることを家族に知られていたことにショックを受け、その場に膝をつく。
そんな彼に、静かに事の成り行きを見守っていたミナが声をかけた。
「おとうさん」
「……ミナ」
「お風呂はいってきてね」
「……はい」
もうひとりの娘も、レダが娼館にいったことにご不満だったらしい。
こうしてレダのお風呂行きは決まった。
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