19「アンジェリーナと過ごす夜」①
アンジェリーナの美しさにレダは息を飲んだ。
女性に縁がなかったとはいえレダも男だ。綺麗な人に興味を覚えてしまうのも無理はない。
「テックス様もありがとうございました。こちら側も、二度と今回のようなことがないよう努めさせていただきたいと思いますわ」
「俺は別に大したことはしてねえさ。普段、世話になってるからな。まぁ、今日のサービスは期待してるぜ」
「もちろんですわ。ご期待ください」
穏やかに微笑むアンジェリーナとテックスは知己のようだった。
「治癒士様にも誠心誠意ご奉仕させていただきますわ」
「あ、いえ、俺は特になにも」
「いいえ、そんなことはございません。治癒士様のおかげで、大切な妹分に傷が残りませんでした。心まで無傷とは申せませんが、それでも笑顔が失われずにすんだことに感謝しかございません」
そう言われて、先ほどの少女を思い出す。
治癒士が治療せず、そのままであれば、傷は残っていただろう。
時間が経てば、綺麗に治癒できる保証もないため、レダがこの場に居合わせたのは不幸中の幸いだった。
「もし、本日のお相手が決まっていなければ、ぜひ私をご指名ください」
「――おいおい! アンジェリーナ、お前さん、いいのか? 今は客を取るのをやめて、育成に回っていたはずだろ?」
「ええ、ですが、他のお礼の方法が私にはわかりませんもの」
アンジェリーナの申し出に、なぜかテックスが驚いていた。
レダはその理由がわからず首を傾げようとして、慌てて言葉を発する。
「いえ、俺は別に、今日はもう帰ろうかなーなんて」
「そんなつれないことをおっしゃらないでください。それとも、私は好みではありませんか?」
「――そっ、そんなことは、ありませんけど」
彼女のような人を好みではないと言える男はそうそういないだろう。
よほど趣味が偏っていなければ、誰もが大金を積んででも、一晩を共にしたいと思うはずだ。
「レダよぉ、悪いことは言わねえから、ありがたく受け取っておけって。このアンジェリーナはよぉ、この店でナンバーツーの人気者だ」
「ナンバーツー!?」
「あら、人気者だなんてお恥ずかしいですわ。私よりも、お姉様のほうがよほど人気ですもの。ところで、テックス様のお相手はお姉様でよろしいですか? もちろん、治癒士様もテックス様からもご料金はいただきません」
「……マジかよ。いいのかい?」
「もちろんですわ」
「じゃあ、お言葉に甘えちまうかな!」
嬉しそうなテックスだ。
ナンバーツーのアンジェリーナよりも人気というなら、ナンバーワンしかいない。
つまり、この店で一番の娼婦が相手をしてくれるということだ。
テックスの顔がだらしなく緩んでいるのも理解できる。
「では、テックス様をお姉様にご案内させていただきますね」
アンジェリーナは手に持っていた小さなポーチから鈴を取り出すと、ちりん、と鳴らす。
すると、ひとりの女性が現れ、深々と一礼した。
「この子が案内しますわ。どうぞ、楽しいひと時をお過ごしください」
「おう、ありがとな。レダ、じゃあ、お先にな」
「あ、はい。いってらっしゃい」
笑顔で女性と一緒に部屋から出て行くテックスに、レダは間の抜けた返事をしてしまう。
「では、治癒士様、私たちもお部屋に参りましょう」
「あ、いや、俺は本当にいいので」
「遠慮なさらず。さあ、どうぞ」
アンジェリーナがレダの腕に自らの腕を絡めてきた。
柔らかな感触が腕に伝わり、思わず息を飲む。
緊張し、体が強張ってしまった。
そんな緊張を見抜かれたのか、アンジェリーナはレダに優しく微笑む。
「どうか、そんなに緊張なさらないでください。私まで緊張してしまいますわ」
「す、すいません」
「では、参りましょう」
彼女から伝わる、甘い香りに誘われるままレダは抵抗することができぬまま、歩き始めたのだった。
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