15「ミレットとアマンダ」①
冒険者ギルド受付嬢を務めるミレット・メンディスは、ギルドが運営する宿泊施設のひとつを訪ねていた。
「お加減はいかがですか?」
声をかけられたのは、ベッドの上に座る回復ギルド職員のアマンダ・ロウだ。
彼女は野盗に囚われていたが無事保護され、今は回復するのを待っている状況だった。
もちろん、肉体面の回復ではない。
アマンダはジールによって暴行されていたものの、怪我自体はそこまでのものではなかったため、レダがすでに治療してくれてある。
回復を待つのは心のほうだった。
陵辱こそされなかったものの、数時間続いた暴行は彼女の心を疲弊させた。
心を折られたことから、レダをはじめとする町の情報を渡してしまったことにも罪悪感を抱いているようだった。
彼女のせいでレダは危機に陥り、町にも被害は出た。
しかし、冒険者ギルドはもちろん、領主も彼女のアマンダに罪を問うことはしないつもりだ。
誘拐され、暴行を受けた状況で、身を守るために相手に要求されたことに応じるのは仕方がないことだと判断されたのだ。
なによりも、アマンダ自身が今回の一件に、後悔と反省を見せていることもあることも、罪に問われないひとつの要因となった。
幸いなことに、レダをはじめ彼の家族もアマンダを責めるつもりはないようだ。
レダはレダで、かつて所属していたパーティーのリーダーが野盗に堕ち、町を襲撃した理由のひとつがレダへの逆恨みだったこともあり、自分を責めているほどだった。
もちろん、レダに非がないことは誰にでもわかることだ。
同じように、アマンダにも非がないとされていた。
そんなアマンダはすぐに王都に戻ることはできず、心が癒えるのが無理でも、平穏を取り戻すまでアムルスに滞在することとなった。
同じ女性である、ミレットはアマンダを放ってはおけず、時間を見つけては顔を見せて話し相手になっていたのだ。
その甲斐あって、アマンダは回復しつつあった。
「あなたのおかげで落ち着いています。ありがとう」
「それはよかったです。顔色もだいぶよくなりましたね」
「ええ。もうあのときの夢も見ないし、夜も眠れるようになりました。もうしばらく休ませてもらったら、王都に戻ろうと思っています」
今のアマンダからは、初めて顔を合わせたときの、強烈な印象はなかった。
もしかすると、今の彼女こそ、本来のアマンダなのかもしれないとミレットは思う。
「いいえ……この町にいる資格は私にはありませんから」
「……アマンダさん。まだご自分を責めているのですか? あなたは悪くないんですよ」
「私は助かりたい一心で、この町の情報と……レダ・ディクソンさんの情報を渡してしまいました。それは許されることではなりません」
アマンダの口からレダの名前が出てきたことに、ミレットは驚いた。
救出時になにがあったのか聞いて以来、彼女の口からレダの名前は出てこなかった。
彼に罪悪感を抱いているせいで、口に出すことができない様子だったのだ。
ゆえにミレットも、必要以上にレダの名を彼女の前で出したことはない。
ただ、彼と彼の家族が無事だとしか伝えていなかった。
「彼は、レダ・ディクソンさんはどうしていますか? やはり私に怒りを覚えているのでしょうか?」
「いいえ、レダさんはあなたを責めてはいません。むしろ、心配していました」
「……そんな」
ミレット同様にレダもアマンダのことを気にしていた。
回復ギルドに所属せず安い治療費で人々を治療するレダと、回復ギルドの職員でレダの行動に苦言しにきたアマンダの出会いが、いいものになるはずがない。
一度はアマンダを追い返したレダではあるが、彼女が自分の知り合いに攫われ暴行を受けたと知れば、優しい彼が罪悪感を抱えることは容易に予想できた。
「……あれだけ私と反目しあったのに、人が良すぎますね」
「そこがレダさんのいいところですから」
レダを信頼し、頼りにするミレットの言葉に、アマンダは困ったような、それでいてどこか納得したような顔をしたのだった。
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