13「勇者の興味」②



 にこにこするナオミにレダは頭痛を覚えた。




「君はルナを狙っただろう!」


「うむ。確かに狙いはしたが悪意があったわけではないのだし、もう戦おうとしないから安心してほしいのだ」


「だからって、はいそうですかってなるわけないじゃないか」


「代わりにお前に興味を持ったのだ!」


「――俺!?」




 急に興味を持ったと言われてしまったレダは、目を丸くすると同時に、頭の痛みが増した気がした。




「お前は面白そうなのだ。戦闘自体はあまり強くないが、自分で自分に回復魔法をかけて立ち上がってくるし、あとちょっと弱いけど加護ももらっているようなのだ」


「……さようで」




 素っ気ない態度を取ってみるが、内心では驚いていた。


 ミナの特殊スキルともいえる「恩恵」がレダにあるのをナオミは気づいているようだ。


 さすが勇者というべきだろう。




「なによりも、だ」


「なによりも?」


「私はお父さんというものを知らないのだ。だから、お父さんがどんな生き物なのか、近くで見てみたいのだ!」


「そ、そんな理由で?」


「ちなみに私を拒否したら、すぐに戦闘再開なのだから覚悟するといいのだ」


「それって脅しじゃないか!」


「そうともいうな!」


「そうとしか言わないよ!」




 目的のためなら手段を厭わない姿勢が実に勇者らしくない。


 内心では文句を言いながら、下手に断って、ナオミの機嫌を悪くするのは得策ではないと考える。


 諦めたレダは、大きく嘆息した。




「あー、はいはい。わかりました。ただし、俺の大切な家族たちに手出しは無用だ、いいな!」


「うむ! 約束するのだ!」




 手を上げて元気よく返事をするナオミに毒気を抜かれてしまったレダは、渋々彼女を宿に連れて行くのだった。




 宿で受付をしていたリッグスに話をすると、ナオミに探るような視線を向けたあと、あっさり受け入れてしまった。


 ただし、レダたちとは違い、冒険者ギルド関係者ではないため、料金は別途とるとのこと。


 ナオミは慣れた様子で数日分の支払いをすると、なぜかレダたちの部屋にやってきた。




「今日からお世話になるのだ!」


「……あのさ、せっかくお金払って部屋を用意してもらったんだから、自分の部屋にいきなよ」


「嫌なのだ! ひとりでは寂しいではないか!」




 そんなわがままを言い始めたナオミに、ついにルナの限界が迎えた。




「ちょっとあんたさ。パパが優しいからって調子乗ってんじゃないわよ」


「うむ。レダは優しいのだ。これがお父さんの包容力なのか?」


「あんたのパパじゃないでしょ! あたしとミナのパパだから!」


「なら、私も娘になるのだ!」


「馬鹿言ってんじゃないわよ! 駄目に決まってるでしょ!」


「えーっ、そんなのずるいのだ! 私も娘になる! なるったらなるのだ!」


「無理でーす。残念でしたー! パパはあたしたちだけのものですからー!」




 駄々をこね始めるナオミに、ルナが勝ち誇った顔をした。


 これで狙われた鬱憤が晴れてほしいと願うレダだった。


 しばらく不満を全開にして頰を膨らませていたナオミだったが、気を使ってくれたミナに「お茶飲みにいこ?」と誘われると、ころりと笑顔になってついて行ってしまった。


 万が一のことがあっては困るとヒルデガルダも同行してくれる。


 部屋に残されたのはレダとルナだけ。




「もうパパったら! あたしのために勇者と戦ってくれたのは嬉しいけど、ここに連れてくるなんて!」


「ごめんごめん。だけど、あの子ってなにするかわからないところがあるから、どうせなら近くに置いておいたほうがいいかなって思ったんだ。それに、約束したからルナにちょっかいかけないだろうし……なんとなくだけど、そう悪い子じゃない気がするんだよ」


「そんなことは心配してないから!」


「へ?」


「あたしが心配してるのは、あーゆー癖のある子はパパの魅力に気づくタイプなのよ! もう気に入ってるとか、娘になるとか言い始めてるじゃない! その内、妻になるとか言い出すのも時間の問題よ! 危険案件よ!」


「――そっちの心配なの!?」




 レダは娘の発言に目を丸くして驚いた。


 ナオミを危険扱いしているルナだが、その危険の意味合いが違ったのだ。


 これにはレダも唖然とするほかない。




「そ、そんな心配はしなくていいんじゃないかなぁ?」


「いいえ、駄目よ。あたしの女の勘が言っているわ。あの小娘は危険だってね!」




 ぜひその勘は外れてほしい。


 心底願うレダだった。






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