12「勇者の興味」①


「私は正義の味方の勇者として、悪党がいればどこにでも行って戦うのだ!」


「……はぁ。よくわからないっすけど、町中で大暴れしたら勇者様が悪になるからやめてほしいっす」


「なんだと!? 今まで街を破壊しても、勇者とか正義の味方だとか適当に言っておけば許されてきたのに、ここではダメなのだか!?」


「ダメっす。超ダメっす! むしろ、正義の味方を名乗る勇者様なら町を壊さないでほしいっす!」




 至極真っ当なアイーシャの訴えに、ナオミが後ずさる。


 今まで、「勇者」や「正義の味方」を名乗っていれば、戦闘で町を破壊しても許されていたらしいが、この町ではそれが通用しないことに戸惑っているようだった。




(……俺からすると、突然現れて戦おうと催促してくる勇者を正義の味方とはいいたくないんだけどな)




「うぅぅ、だが」


「あまり聞きわけがないと詰所まで連行するっすよ? 自分、たとえ相手が勇者様でも容赦はしないっすから」


「うぅ、わかったのだ。もう今日は戦わないのだ」


「念のために言っておくっすけど、明日も明後日も戦ったらダメっすからね」


「……わかったのだ」




 厳重注意を受けたナオミは、渋々大剣を鞘にしまって背負いなおした。


 これでもう戦闘はないだろうと、レダは安心する。


 すると、アイーシャの視線がこちらに向いた。




「レダさんもなに勇者と揉め事を起こしてるっすか」


「いや、それは」


「この町の貴重な治癒士が怪我でもしたら割とシャレにならないっすから、もっとご自分のことを大切にしてほしいっす」


「はい、すみません」


「それにほら、ミナちゃんたちも心配そうな顔をしているじゃないっすか。お父さんになったんっすから、子供たちのことを考えてもっと慎重にならないとダメっすよ?」


「おっしゃる通りです」




 娘を守るためだったとはいえ、勇者相手に戦う選択をしたことは無謀ともいえる。


 いくら自分で治療したからとはいえ、怪我までしているので、娘に心配かけたことは変わらない。


 現にルナは、レダがやられたことで激昂してしまい、自分が戦おうとしたくらいだったのだから。


 守るはずの娘が戦えば本末転倒である。




(……勇者ナオミは本気で戦ってなかったから、助かったみたいなものかな)




 ナオミが全力で戦っていないことは簡単にわかった。


 本気で大剣を振るわれていれば、たとえ刃が当たらなくとも大事になっていたことは間違いない。


 回復魔法だって万能ではない。


 死者は蘇らないし、回復魔法を使えないほど負傷すれば、結局待っているのは死だ。




「反省してくださっているならいいすけど……とにかく、あまり心配させないでくださいね」


「わかりました。すいません」




 いい大人が娘とそう年齢の変わらない少女に怒られるというのは結構堪えるものだ。


 レダは、年長者らしく、感情的にならずもっと落ち着いて行動しようと思うのだった。




 その後、アイーシャと自警団から一通りの厳重注意を受けたレダたちは、宿に戻ることにした。


 ヴァレリーは馬車が迎えにきて、一足先に帰宅している。




「あのね、パパ……ちょっといい、とってもきになることがあるんだけどぉ」


「駄目です」


「おとうさん、あのね、うしろに」


「しぃっ、見ちゃいけません」


「……いや、レダよ。いい加減現実を見ろ。ついてきているぞ」




 娘たちから声をかけられたレダは、必死に背後を振り返らないようにしていた。


 なぜなら、勇者ナオミがにこにこしたまま付いてきているのだ。


 いろいろ言ってやりたいことはあるのだが、声をかけたらいけない気がしたので、必死に見ないようにしていた。


 だが、そろそろ限界のようだ。




(このまま宿まで着いてくるつもりなのかな?)




「あのさ、どうして君は俺たちの後をついてくるのかな?」




 覚悟を決めて恐る恐る訪ねたレダに、ナオミは満面の笑みを浮かべた。




「泊まるところがないので、お世話になるのだ!」




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