11「おっさん対勇者」③
「ちょっ、ルナが戦ったら本末転倒なんだけど!」
今にも飛びかかりそうなルナを羽交い締めにすると、彼女は足をバタつかせて抵抗する。
「パパ! 離してよ! あの欲求不満の戦闘狂の顔をぶん殴ってやらないと気がすまないんですけど!」
「ナイフ構えて、殴るですませるつもりないでしょ!」
「首と胴体さよならさせるだけだから! 一瞬で終わらせるから、はーなーしーてー!」
ルナを守りたいので戦ったのに、彼女がナオミと戦ったら今までの戦闘の意味がなくなってしまう。
一方、勇者ナオミは、不思議そうにレダとルナを眺めて首を傾げていた。
「……パパなのにダーリン? いまいち、お前たちの関係がわからないのだ」
「つまり奥さんってことよ!」
「なるほど、わかったぞ!」
「納得してくれるの!?」
「……いや、言ったルナが驚くなよ」
「うむ、わかった。ルナ・ディクソンがこのおじさんの妻なら、夫が身体を張って私と戦おうとしたのも理解できるのだ」
「――意外と話のわかるいい奴じゃない」
あっさり、ルナをレダの妻として認識してしまったナオミに、怒り心頭だった少女の頬が緩んだ。
「ルナちゃん! そこで笑顔になってどうするのですの! 理由はさておき、あなたを狙っている方なんですのよ!」
「……そうだったわね。じゃあ、やる?」
レダに羽交い締めされたまま、ルナが挑発的な笑みを浮かべる。
「あたしはパパみたいに女の子だからって手加減したりしないわ。むしろ、本気でいくわよ」
「望むところだ! それこそ私が求めていた戦いだ! こい! ルナ・ディクソン!」
「パパを怪我させて、人の過去ほじくり返して……喧嘩売ったこと後悔させてあげるからっ、泣いたってやめてやらないからね!」
ルナはそう言い放つと、レダの腕からするりと抜けて、ナイフを構えて疾走する。
次の瞬間、硬い金属同士がぶつかる音が響き、ルナのナイフとナオミの大剣がぶつかっていた。
「――よく受け止めたじゃない。勇者っていうのは嘘じゃないみたいね」
「ふ――ふはははは、いいぞ! いいのだ! 早くて鋭い! そして、殺気があった! これが私が求めていた戦闘なのだ!」
ルナが放つナイフの連撃を、ナオミは器用に大剣で捌いていく。
お互い本気ではないように見えるが、すでにレダには介入できないレベルの戦闘になっている。
「やるなルナ・ディクソン! 私に傷をつけたのは、お前が久しぶりなのだ!」
「あら、それは光栄ね」
傷といっても、ナオミの頬に赤い線傷ができている。
ルナの繰り返されるナイフの斬撃は、大剣を扱いナオミの速さを優に超えていたのだ。
「このまま、首を斬り飛ばしてあげるわぁ!」
「やってみるのだ! 私も、少し本気を出してやるぞ!」
次の瞬間、ナオミの瞳が真紅に輝いた。
「――いくのだ」
短く告げた勇者が、いざ攻撃を仕掛けようとしたその時、
「はい! そこまでっす!」
誰かの声がふたりの戦いに割って入った。
ぴたり、とルナとナオミの動きが止まり、レダも声の主へと視線を向ける。
すると、そこには見知った少女がいた。
「アイーシャ?」
「はい。アイーシャ・オールロっす! ルナちゃんも、そこで大剣振り回している子もそれまでっすよ。やりすぎっす!」
重装備に身を固めた少女アイーシャ・オールロが、困った表情を浮かべてそこにいた。
彼女の背後には、それぞれ防具に身を固め、武器を持った人間が十人ほどいる。
自警団だ。
アイーシャは、この騒ぎの中で一番の年上に呆れた視線を投げる。
「通報があったので飛んでくれば、レダさんがいるのになにやってるっすか?」
「……ごめん」
「ルナちゃんもミナちゃんもっすよ。えっと、そっちの子は見ない子っすね。レダさんのお知り合いなんでしょうけど、喧嘩はほどほどにしてほしいっす!」
「はぁい」
「ごめんなさい」
ヒルデガルダとヴァレリーにも注意していくアイーシャに、それぞれが頭を下げた。
「すまん」
「申し訳ございません」
実際は喧嘩ではないのだが、ここで変な言い訳をして自警団と揉めるのは得策ではない。
それは少女たちも同じだったようで、言い訳することなく素直に謝罪していく。
「で、そこのあんたは何者すっか? 見ない顔っすけど、アムルスの人じゃないっすよね。……あれ? どこかで見たことがある気がするっすけど、気のせいっすかね?」
「私はナオミ・ダニエルズ! 勇者なのだ!」
「――はぁ!? 冗談は休み休みに……あぁああああああっ! そうっす! この子、どこかで見たことがあると思ったら、ほら、焔の勇者様じゃないっすか! なんで勇者様とレダさんが町中で喧嘩しているっすか!?」
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