9「おっさん対勇者」①
レダは困惑しつつも呆れもしていた。
なぜ勇者が暗殺組織を壊滅させたのか不明だったが、まさか退屈しのぎでそんなことをしていたとは思いもしなかったのだ。
ルナとミナを脅かす脅威が消えたことを喜んでいたが、こうして組織を潰したはずの勇者が追いかけてきたことになるとは予想もできず、言葉もない。
しかもその理由が、退屈ゆえに強い人間と戦いたいから、などと誰が思うだろうか。
(この子はルナにとって危険かもしれない)
自然とレダの警戒心が高まる。
「悪いけど、君が本当に勇者でも、そうじゃなくても、娘には近づけさせない」
「……パパ」
娘たちを庇うため、最悪レダ自身が戦うことを覚悟する。
「レダ、最悪の場合は加勢するぞ」
「レダ様……どうかお気をつけて」
ヒルデガルダも警戒を高め、ヴァレリーが心配の声をかけてくれた。
「むむ。私は別にルナ・ピアーズを捕まえにきたわけじゃないのだぞ。そもそも罪に問われていないから、捕まえる必要はないのだ」
「……え? あたし、罪に問われてないの?」
「そうなのだ。殺されて当然の悪党を殺したことは個人的には賞賛したいのだ。それに、強制されていただけだし、そもそも組織にルナ・ピアーズが所属していたことも知る人間は……うーむ、私くらいしかいないのではないか?」
いくら強要されていたこととはいえ、ルナは人を手にかけたことを気にしていたことをレダは知っている。
だが、ナオミの言葉が本当なら、悪党を殺しただけであり、罪にも問われていない。
なによりも、組織が壊滅した今、ルナが暗殺者だった過去を知る人間は、レダたちくらいだと言うことだ。
(安心はした。だけど、その前にどうしても我慢できないことがある)
「さっきから聞いていて思っていたんだけどさ」
「なんなのだ?」
「この子はルナ・ピアーズじゃない。ルナ・ディクソンだ。俺の大切な家族だ。よく覚えておくんだ、勇者サマ」
レダはずっと気に入らなかった。
ナオミがルナをピアーズと呼ぶたびに、今の関係が否定されている気がした。
ルナとミナの父親は、組織にふたりを売り払ったという。
彼女を傷つけたくなかったので深くは聞いていないが、ロクでもない人間なのは間違いない。
そんな人間を思い出させるかつての家名で呼ばれる度に、ルナはなにを思ったのか。
「この子が罪に問われないのは喜ばしいけど、君がルナと戦うというのなら、それはそれで問題だ。俺は父親として娘を危険な目に遭わせるわけにはいかないんだよ」
「――んんん? 私の記憶だと、ルナ・ピアーズの父親はお前じゃないのだ?」
「今は俺が父親で、家族だ。よく覚えておけ」
「うむ。わかったのだ。では戦おう!」
「……あ、だめだ、この子話聞いてない」
なぜ今の会話から戦おうと思ったのかわからない。
「つまり、ルナ・ピアーズ……じゃなかったのだ。ルナ・ディクソンを守るために、お前が私と戦うということでいいのだな?」
「あーっ、もう! ちくしょう! それでいいから、ルナには手を出させないからな! この子になにかしたいっていうなら、俺を倒してからにしろ!」
「はははははっ! ならばそうするのだ! 私を楽しませてくれるのなら、誰でも構わないのだ!」
話を聞かないナオミに、半ば自棄になったレダが構えると、彼女は嬉々として大剣を構えて地面を蹴った。
「父親舐めんな!」
このままでは背後に庇う娘たちを巻き込みかねないと判断したレダは、ナオミを迎え撃つ形で、自身も前に出たのだった。
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