7「勇者登場」①
レダが会計を終えて、みんなで店の外に出ると、満面の笑みを浮かべたミナが手を握ってきた。
「またこようね! 今度はメイリンちゃんもいっしょに!」
「そうだな。うん、またこよう」
ミナの大切な友達であるメイリンは、宿の手伝いをするためこなかった。
そのことを残念に思うミナだったが、他ならぬメイリンが「楽しんできてねー」と送り出してくれたので、暗い顔をすることはなかった。
リッグスも娘に手伝いはいいから一緒に行ってこいと言ってくれたのだが、いずれは店を継ぐと意気込んでいるメイリンは店の手伝いに精を出すことにしたようだ。
「パパごちそうさまっ。あたしもまた連れてきてね。今度は夫婦ふたりっきりでくるのもいいかもよ?」
「はいはい。そうだねー」
「ちょっ、扱いが雑なんですけど!」
腕に抱きついてきたルナの頭を撫で、適当に返事すると抗議の声があがった。
「私もぜひまたきたいな。今度は別なものを味わってみたいぞ」
「わたくしもぜひお誘いくださいね」
それぞれがまたみんなで来ることを期待していた。
よほどパンケーキが美味しかったのか、それともみんなで過ごしたひと時が楽しかったのか、もしくは両方かもしれない。
レダも、少女たちが楽しんでくれたのならまたきたいと思っていた。
こんな時間を過ごすのも悪くないし、いつも治療を手伝ってくれる娘たちにも労ってあげたいという考えもあった。
「またみんなで来よう」
レダがそういうと、少女たちは破顔して頷いた。
そんなときだった。
「楽しそうなところ、失礼するのだ」
よく通る大きな声が、レダたちに掛けられた。
「ん?」
振り返ると、そこにはピンク色の髪をツインテールにした美少女がいた。
まだ幼さを残す少女だった。
際どい丈のホットパンツを履き、ヘソ出しのシャツの上にジャケットを羽織っている。
なによりも目を引くのは、可愛らしい少女に似つかわしくない大剣を背負っていることだった。
「だれ?」
「こんにちは! 私は焔の勇者ナオミ・ダニエルズなのだ! ルナ・ピアーズを倒しにきたぞ!」
「――っ、ピアーズだと?」
突然現れた勇者を名乗る少女に、レダだけではなく、ミナとルナも大いに驚いてしまう。
ピアーズという家名に聞き覚えがあった。
それは、ルナとミナが生まれ育った家の名だ。
「はぁ? 勇者って、あんたが?」
ルナの疑問も理解できる。
この場にいる誰もが、目の前の少女を勇者だとは思わなかった。
「むぅ、まさか見かけで判断しているのか? いくら私がかわいいのは、わかるが、だからといって勇者ではないと決めつけられたら困るのだ! よしっ、ならば証拠を見せるぞ!」
町に中であるにも関わらず、なんの躊躇いもなくナオミは背の大剣を抜いた。
近くにいた人から悲鳴があがり、揉め事に巻き込まれないようにと逃げていく。
「お、おい、こら! こんなところで剣を抜くな!」
「見るがいいぞ、この力を!」
「駄目だ、この子、話を聞かない子だ!」
大剣の切っ先をルナに向けたナオミの瞳が真紅に染まる。
「私は焔の勇者なのだ! その特性も、炎っ!」
轟っ、と音を立てて、大剣から炎が吹き出した。
熱波が襲い、レダはとっさにミナとルナを庇った。
ヒルデガルダは障壁を張り、ヴァレリーを守る。
「炎を消せ! 町中だぞ! 何考えてるんだ!」
「おっと、そうだった。お前たちが私を勇者だと信じてくれないからつい!」
(剣に炎を宿したことが勇者の証拠になるのかわからないけど、そんなことを言えばもっとすごいことしそうだから黙っていたほうがいいな)
レダの判断はきっと間違っていない。
この自称勇者は、その場のノリで生きているのだと思えてならなかった。
「で、あんたが勇者だとしてあたしに何の用よ?」
「うん、お前がルナ・ピアーズだったのだな。ならば、話が早いぞ! 私と戦え!」
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