5「女同士の会話」①
レダがテーブルから離れると女性陣は思い思いに喋り始める。
「パンケーキおいしかったー」
満足して満面の笑みを浮かべるミナに、少女たちが同意して頷いた。
王都で人気になるのもわかる美味しさだった。
至福のひと時を味わった少女たちも、ミナと同じように満足そうだ。
「それにしてもここのパンケーキって美味しわね。また食べにきたいけど、お昼の代わりにしてたら太っちゃうわよね。怖いわー」
「うふふ、ルナちゃんは太っても可愛いですわよ。安心して太ってくださいまし」
「はーい、その喧嘩買った!」
相変わらずなやり取りをするルナとヴァレリー。
なんだかんだとこのふたりは仲がいい。
「それにしても、レダはあまり恋愛話が得意じゃないようだな」
紅茶の香りを味わっていたヒルデガルダが、先ほどまでのレダとのやり取りを思い出してそんなことを言う。
少女たちは、若干暗い顔になる。
まさかとは思うが、自分たちの気持ちが迷惑なのではないかと考えてしまったのだ。
「おとうさん、少し、こまった顔してたね」
「困っていたというよりは戸惑いのほうが多い感じだったと思えるが」
ミナとヒルデガルダの声に、ルナとヴァレリーが落ちこむ。
「ぐいぐいいきすぎたかしら?」
「……わたくしもはしたなかったでしょうか?」
「私はそうとは思わない。なんというか、レダ側の問題ではないかと思うのは私だけだろうか?」
ヒルデガルダは語る。
レダは実にいい男であり、優しく、心地いい人間だ。
ミナはもちろん、自分たちを家族として受け入れてくれている。
だが、その家族の枠組みを出ようとすると、拒絶ではないが戸惑いを覚えることがあるという。
もとから自分たちに思うことがあれば、家族としても受け入れることはできないはずだ。
しかし、そんなことはない。
ならば、レダは恋愛面でなにかあるのではないかと、ヒルデガルダは考えたのだ。
「えっと、もしかしてあれじゃない。昔、変な女に騙されてトラウマになってるとか?」
「ありえますわ。レダ様のお優しさを利用する女性がいないとはいえません」
ルナとヴァレリーが、レダならありえる、と頷く。
彼女たちは先ほど、レダにふさわしくない女を近づけないと決めたばかりだ。
自分たちがいないときに、すでに彼を利用するような女がいても不思議ではないと考えられた。
「ちょっと伯爵家の力を総動員して、パパの昔の女について調べられないの?」
「レダ様の過去は知りたいですが、さすがにちょっとそれは……プライバシー的なこともありますので」
「ふむ、ヴァレリーの顔は、そんなことを言いつつあとでこっそり調べる顔をしているな」
「それはええ、もちろんですとも――はっ」
「あんたねぇ!」
「ヴァレリーおねえちゃんずるい!」
「で、出来心ですの!」
レダの過去。
それは彼に恋する少女たちにとって重要である。
無論、娘ポジションのミナだって、レダの過去は気になる。
「ま、ヴァレリーの抜け駆けはあとでお仕置きするとして」
「お、お手柔らかにしてくださいませ」
「それで、パパの昔のことよ。パパったらあまり自分のこと話してくれないから。こうなるととことん気になるわね」
「……女はいたのだろうか? あまり女慣れしているようには思えないぞ?」
やはり疑問はそこに至ってしまう。
「ミナはそのへんどう? パパと一番一緒にいたんだから聞いてない?」
「うーん、わかんない。でも、おとうさんに誰か好きな人がいたって話はきいたことないかな」
「ミナちゃんでもわからないのですね」
現在、彼女たちが知るのは、冒険者として活動していたが、仲間たちにクビにされたことくらいだ。
レダをクビにしたパーティーリーダーは、先日町を襲撃した野盗のリーダーだった。
すでに処刑され、もうこの世にはいない。
ならば、他の面々はどうしているのだろうか、と思う。
ジールが残した証言が本当なら、メンバー四人のうち、ひとりは野盗として活動中に死亡している。
残ったのは女性ふたりらしいが、借金を抱えたジールたちを見捨ててどこかに逃げてしまっているので消息は不明とのことだ。
「女がいたかいないかはさておき、歳の離れたあたしがスキンシップをちょっと激しくするだけで動揺してるから童貞なのは間違いないと思うんだけど」
「る、ルナちゃんっ、はしたないですわよ!」
「いいじゃないの、別に。どうせパパはあたしがこんなだって知ってるんだから、猫かぶる必要なんてないわ」
ヴァレリーに注意を受けるも、ルナは平然としていた。
お行儀良くするつもりはない。
レダに救われたあの日から、ありのままの自分でいると決めたのだから。
「――ところで、レダ様がはじめてというのは本当でしょうか?」
「あんたもはしたないじゃない!」
「まったく、このふたりは」
瞳を輝かせるヴァレリーにルナが突っ込み、ヒルデガルダが呆れる。
ミナは「はじめて」が何を意味しているのかわからなくて首をちょこんと傾げていた。
「間違いないわ。パパは童貞だって、あたしの勘がいってるもの。ふふっ、はじめてならはじめてで嬉しいわ。パパのはじめてがあたしとか――滾るわ!」
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