エピローグ「王都から届く厄介ごとの予感」



 王都の酒場でひとりの女性が荒れていた。




「はぁ!? それってどういうことよ!?」




 かつてレダ・ディクソンを金づるとしていたリンザは、知り合いの冒険者から聞いた情報に憤りを覚えていたのだ。




「レダのやつ! 治癒士だったことを隠していたなんて、最低ね! 私のこと騙して! 知ってたら捨てなかったのに!」




 名ばかりの元恋人が金を稼ぐことができる職種の人間だったと知ると、自分から捨てておいて身勝手に怒り始めた。




 リンザはレダが去ってから不幸に見舞われていた。


 本命としていた男性に別の女がいて、自分は遊び相手でしかなかったことを知る。


 入れ込んでいた男性に金を貢いでいたことや、浪費癖があったことから散財してしまう。




 一度は金がないから捨てたものの、もう一度レダを利用して金をなんとかしてもらおうと企むも、どこを探してもレダはいない。


 結局、借金だけがリンザのもとに残った。




 新しい恋人を見つけるも、借金があると知るとすぐに離れていってしまうため長続きしない。


 もともと好きでもない男に、金をもらおうと近づくリンザの企みを見抜き侮蔑の言葉を吐く者までいた。




「どうして私ばかりがこんなことにならなきゃならないのよ! レダのせいだわ!」




 誰かのせいにしなければやってられないと、毎日酒場でワインを飲みながらレダの悪口を言う日々を送っていた。


 そこへ、レダの情報を持った冒険者から彼の話を聞くこととなる。




 レダは辺境の町アムルスで、治癒士として活躍し、ギルドの覚えも、領主の覚えもいいと言うことを知った。


 治療士といえば、些細な治療で金貨十枚を平気で要求する金の亡者だ。


 まさかあのお人好しのレダがそうだったとは夢にも思っていなかった。




 同時に悔しく思う。




 ――私に隠れて金儲けしていたなんて!




 リンザの中では、レダは金の亡者で自分の知らないところで荒稼ぎしていたと勝手な妄想が膨らんでいたのだ。




「ただの冒険者だと思っていたのに、詐欺よ詐欺っ! 私は騙されたのよっ、賠償金が欲しいくらいだわ!」




 金もないのに酒場でワインを呷り、酔っ払ってくだを巻くリンザに近づく者はいない。


 知り合いの冒険者も、関わりにあうのはごめんだと早々に姿を消していた。


 彼女は、外見こそ美しい二十代前半の美人だが、元恋人を口汚く罵る姿は、決してお近づきになりたいものではない。


 現に、最初こそリンザに声をかけようとしていた男性はいたが、今では失笑のネタにされているほどだ。




 ワインを飲み干すと、リンザはいいことを思いついたとばかりに不機嫌な顔から一変して笑顔になる。




「――そうだわ。あのお人好しなら、私が困っていると言えば喜んでお金をくれるはずよ!」




 どこからそのような結論が飛び出てくるのか不明だが、リンザはそう信じて疑わなかった。




「そうと決まればアムルスに行くわよ。私のことを騙していた件を含めて、金をたくさんもらってやるわ!」




 自分にとって理想の未来しか想像していないリンザは知らない。


 彼にはもう守るべき家族がいるため、自分などすっかり過去の存在になっていることを。


 リンザなど比べ物にならないほど、魅力的な子が彼のそばにいることも。


 そうとは知らずに、もう大金を手に入れた気になったリンザはワインを追加注文し、気持ちよく飲み干すのだった。








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