54「野盗たちの末路」②
――死罪。
かつての仲間の判決に、レダは苦い顔をする。
逆恨みされたあげく、娘を人質に取られてレダ自身も殺されそうになったのだから同情するつもりはない。
が、簡単に割り切れるものでもなかった。
「そうですか、死罪ですか」
「領主様の屋敷にこそ襲撃はありませんでしたが、殺人、人攫い、人身売買と短期間ながら手広くやっていたので避けようがありません」
「そう、ですよね。わかっていました」
「幹部以外は、生涯労働刑です。ただし、この町を襲った野盗をここアムルスで働かせるのは嫌だという反対の声が多かったので、別の町で労働刑となるでしょう」
妥当な判断だと思う。
レダだって、この町の人たちと同じように、野盗たちが娘の目の届く場所にいられたら嫌だ。
「野盗のリーダーだったジールがレダさんに会わせろと暴れていますが、どうしますか?」
「いいえ。俺はもう彼に用はありません。刑が執行される前にジールが反省してくれることを願うだけです」
冷たいかと思われそうだが、今さらジールと会うつもりはない。
彼の恨み言を聞くつもりもないし、謝罪だって必要ない。
こちらからなにかを伝えることもないのだから、顔を合わせても時間の無駄だ。
数年の間一緒に冒険したパーティーリーダーへの感傷は不思議とない。
もうレダにとってジールは過去の存在となっていた。
「わかりました。ギルド長にそう伝えておきますね」
「お願いします」
「では、本題のほうにはいりましょう。診療所の件ですが――」
レダはミレットと打ち合わせを始めた。
そう遠くない内に、診療所が開設され、多くの患者を相手にすることがある。
すでに一緒に働いてくれる医者や薬師も決まっているそうで、後日挨拶する運びとなっている。
ユーリが診療所で働くことは冒険者ギルドとして断る理由がないので、彼女を受け入れる前提で話が進んでいった。
ミナとルナ、そしてヒルデガルダも診療所を手伝いたいと言ってくれている。
回復ギルドはレダの行為に難色を示すだろう。
もしかしたら妨害も起きるかもしれない。
だが、やめるつもりはなかった。
治療費が一般の治癒士と違いとても安かったとしても、それで多くの人が助かるのならいいのだ。
甘い、と言われるかもしれないが、レダはこの町の人たちのために貢献したかった。
この町に移住した身として、早く町の一員として本当の意味で受け入れられたいという打算もあるのだ。
「困ったことがあれば私がお手伝いしますので、今後もよろしくお願いします。レダさん!」
「こちらこそよろしくお願いします。ミレットさん」
過去とさよならしたレダは、新しい未来をまた一歩踏み出していくのだった。
※
アムルスにある牢獄で、ジールは鎖に繋がれていた。
「なぜだ……なぜ、俺がこんな目に遭わないといけないんだよぉ!」
囚人服を着せられた青年には多数の痣がある。
レダに殴られたこともそうだが、抵抗に抵抗を重ねたため扱いは決していいものではなかった。
「レダのせいだ、レダの野郎が俺を馬鹿にしやがったせいだ! あいつがいなければ、あいつさえいなければ!」
自分の非を認めず、レダのせいにすることでジールの正気はなんとか保たれていだ。
そうでなければ、堕ちるだけ堕ちたあげく、最後に待っているのが死罪など到底受け入れられるものではない。
「どうしてあいつは来ないんだ! 詫びひとつできないのかよ!」
会いに来いと見張りに伝えたはずだ。
レダの性格なら、会いに来ると思っていた。
だが、実際は待ち人はいつまでたっても来なかった。
惨めだった。
誰かに気にかけられることなく、孤独だった。
「どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしやがって! 俺は『漆黒の狼』のリーダーなんだぞ!?」
いくら叫んでも誰も相手にしてくれなかった。
当初は、静かにしろ、と見張りが来たが、今では無視され続けている。
同じ牢獄にいた野盗仲間も刑が執行されたため、もう残っているのはジールだけだ。
ついに我慢できなくなったジールは、
「――誰か、助けてくれ!」
懇願を始めた。
「俺が悪かった。頼む、心を入れ替えるから、もう二度と悪さはしないと誓うから、俺を助けてくれぇえええええええ!」
ジールは繰り返し叫ぶ。
ずっと叫んでいれば、哀れに思った誰かが救ってくれるかもしれないと信じていた。
しかし、彼の声に反応するものは誰ひとりとしていない。
――数日後、彼の刑は執行された。
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