53「野盗たちの末路」①



 ジール率いる野盗たちの襲撃から三日が経った。


 住民に死者が出なかったこと、怪我人もレダたちによって治されたというから、町はすでにいつも通りだ。




「レダさん! お待ちしていました」




 今日、レダは冒険者ギルドに呼ばれて顔を出していた。




「先ほどユーリさんとネクセンさんのお話が終わりましたよ」


「ふたりはどうしていますか?」


「もうお帰りになりました。レダさんを待ちたかったみたいですが、他にも用があるらしくて」




 レダもそうだが、この町の治癒士であるユーリ・テンペランスと、ネクセン・フロウは今回の襲撃事件の怪我人の治療に関する報酬の相談にきたのだ。


 窓口こそ冒険者ギルドだが、支払いは領主からとなっている。




「冒険者ギルドをはじめ、みんなが驚いています。まさかおふたりが報酬をいらないとおっしゃるとは思いませんでした」


「ユーリはともかく、ネクセンもですか?」


「ええ、そうなんです。どちらかというとギルドとよく揉めていたのはネクセンさんだったので、驚きを隠せません」




 ネクセンを叱咤したのはレダ自身だ。


 彼が無償で怪我人を治療すると言っていたのは知っていたが、本気だったのかと見直した。




「ユーリさんからは、診療所で働きたいというお話を聞きました。どうやら、高額の治療費を取り、患者を選んでいたのは回復ギルドから派遣されていた助手だったようです」


「……また回復ギルドですか。しょうもない奴らだな」


「ユーリさん自身は、そのあまりお金に無頓着といいますか、魔法さえ使えればいいとおっしゃってました」


「俺もそう聞いています」


「ときどきいるんですよ。攻撃魔法でも、回復魔法でも、とにかく魔法を使うことが好きな方というのは」


「まさにそれですよね」




 レダもユーリと同じタイプの魔法使いと会ったことがある。


 とにかく攻撃魔法をぶっ放すのが好きで、モンスターを見つけたら所構わず攻撃する困った人間だった。


 悪い奴ではないのだが、狭い洞窟で攻撃魔法によってくずれた瓦礫に生き埋めにされかけたことを思い出すと、つい苦い顔をしてしまう。




「ギルドとしてはユーリをどうするつもりですか?」


「正直言って、申し出には感謝しています。レダさんの負担も減りますから。ただ、彼女の助手たちがとても反対しているようです」


「でしょうね。きっと回復ギルドに連絡とかされちゃうんでしょうね」


「ユーリさんは回復ギルドと手を切ってもいいと言ってくれました。ご自身の知らないところで患者から金を巻き上げて悪者にされていたんですから、縁も切りたいのでしょう」




 どちらかというと、助手たちのせいで患者が来なくなり、回復魔法を使えなくなったことがいちばんの不満ではないかと思う。




「揉めそうですね」


「まあ、そこは今更なので覚悟しています」




 苦笑したミレットにレダもつられてしまう。




「町の人たちは大丈夫でしょうか?」


「……悪感情がないと言ったらきっと嘘になるでしょう。ですが、野盗襲撃の件で多くの怪我人を治療していたところを見ているはずですし、きっと大丈夫だと思います」


「ならよかった」




 レダは安心した。


 ユーリは本当によくやってくれた。


 レダがジールと決着をつけている間にも、多くの人たちを治療し続けていた。


 本人は魔力が空になるまで魔法を使えて大いに満足していたようだが、助けられた人たちは彼女を見る目が変わると思う。




 高額な治療費も、悪対応も、回復ギルドから派遣されてきた助手たちのせいだったとはっきりさせれば、ユーリの印象はさらに変わってくれるはずだと信じている。




「冒険者ギルドとしては、ユーリさんの参加はありがたいんです。こんなことを言ったら失礼になることは承知してしますけど、レダさんが本当に永住してくれるかどうか私たちにはわかりません」


「――それは」


「すでにレダさんたちはこのアムルスの人間です。しかし、いつだって別の町に移住することはできます。そのときに、診療所はどうなるのかと考えなければなりません」




 無論、ユーリだっていつこの町から出ていくのかわからない。


 レダのように永住しようとするかもしれないし、新しい何かを求めて新天地に旅立つかもしれない。


 未来は誰にもわからないのだ。




「仮にレダさんがずっとこの町にいてくれたとしても、現役を退いたあとの診療所はどうなるかという不安もあります。後進が育っているのか、それとも……考え出したらきりがありませんが、ギルドとしては考えなくてはなりません」




 レダがずっとアムルスにいてくれることを、誰もが望んでいる。


 彼が治癒士だからという理由だけではなく、純粋に善人だからだ。


 同時に、彼の未来まで潰せない。レダが治癒士としてもっと活躍できる場があるのなら、そこへ送り出す覚悟もしなければならない可能性だってあるのだ。




「俺も未来がどうなるのかなんてわかりません。ミナとルナもいますから」


「そうですよね」


「でも、俺はこの町に骨を埋めたいと思っています。それだけは知っておいてください」


「……ありがとうございます、レダさん」




 レダの言葉に、ミレットは深々と頭を下げた。


 ギルドの職員として、このアムルスに暮らす住人として感謝したのだ。




「顔をあげてください。……ところで、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


「はい。なんでも聞いてください」


「ジールは、野盗たちはどうなりましたか?」




 この三日、気になっていたことを問いかける。


 すると、ミレットは少し迷ったものの、はっきりと教えてくれた。




「野盗のリーダーをはじめ捕縛した幹部たちは死罪になることが決まりました」










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