52「決着」
レダの渾身の拳が無防備のジールの顎を捉え、地面を転がらせていく。
「……はぁ、はぁ……終わりだ、ジール」
倒れたままのジールを冒険者たちが捕縛し、手枷をはめていく。
その様子を眺め、ようやく終わったと実感ができた。
「……レダ、てめぇ……不意打ちなんかしやがって……勝負だ、俺と正々堂々戦いやがれ! 俺が勝ったら、俺を逃すんだ! いいな!」
「いいぞ。容赦無く叩き潰してやる」
ジールの申し出を受け入れると、彼の顔が歪んだ笑顔となった。
おそらく一対一ならば勝てると思っているのだろう。
「なんていうと本気で思ったのか?」
「は?」
「いや、普通に考えて、もう捕まってるお前と戦うわけないじゃん」
「レダっ、てめぇ!」
「あと、正々堂々とかお前が言うなよ。人の娘を人質にして俺を殺そうとしたくせにさ」
「黙れ! 黙りやがれ! 戦えっ、俺と戦いやがれっ、レダぁ!」
「嫌だよ。どうしても戦って欲しいなら、地面に額をつけて、お願いしますって言ってくれたら考えてもいいけど」
もちろん、プライドの高いジールがそんなことできるわけもないし、レダも戦ってやるつもりもない。
「ふざけんなぁあああああああっ、てめぇさえいなけりゃっ、俺はっ、俺はなぁああああああああ!」
「ったく、うるせえ坊ちゃんだ。引き際ってもんをしらねえのか……おう、連れてけ。目障りだ」
絶叫するジールを見ていられなくなったテックスが、部下に命令するとジールが引きずられていく。
「レダぁああああ! 離せっ、離しやがれっ! 戦えば俺が勝つんだよ! 戦わせろっ、レダぁ! れだぁあああああああああああああっっ!」
最後まで大人しくすることなく暴れ続けるジールを見送ると、レダの肩から力が抜けた。
そんなレダの肩をテックスが叩く。
「お疲れさん」
「テックスさんもお疲れ様でした」
「ま、このくらいどうってことないさ。レダはこれからどうするつもりだ?」
「まず娘たちのところに行って、次にギルドで手伝いをしたいと思っています」
「怪我人も出ているから俺たちにとってはありがたいぜ。だけどよ、レダ」
「はい?」
「別に俺たちはお前さんを馬車馬のように働かせたいとは思ってねえんだ。ただ、現状がお前さんに頼るしかねえから誤解されちまうかもしれねえけどよ」
どこか歯切れが悪い物言いのテックスに、レダは笑ってみせる。
「わかってますよ。でも、気にしていません。俺はこの町で娘たちと暮らすんですから、助け合いたいって思っているだけです」
「ありがとな、レダ。ほれ、お嬢ちゃんたちのところへ行ってやんな。俺は一足先にギルドに戻ってるから、あとでな」
「はい。じゃあ、また後で」
テックスと別れるとレダは宿屋に向かう。
早く娘たちに会いたい。
ミナの笑顔が見たい、ルナの声が聞きたい。
ヒルデガルダはどうしているだろうか、リッグスとメイリンはどうだろうか、と気にもなる。
「ミナ! ルナ! ヒルデ!」
宿に着くと家族の名前を呼ぶ。
するとすぐに、
「おとうさん! おかりなさい!」
「パパっ! もっと早く帰ってきてよぉ!」
「おかえり、レダ。無事でなによりだ」
少女たちがそれぞれレダを出迎え、そして抱きついてきた。
「レダ・ディクソン! 見てみろ、私は貴様のいない間に三十人の治療をしたぞ。もちろん金などとっていないからな! べ、別に貴様に叱咤されたから心を入れ替えたわけじゃないんだからな! 私は今までと変わらない私だ!」
「ちょっとおじさん! パパとの再会を味わってるんだから邪魔しないでくれますぅ?」
「こ、小娘! 誰がおじさんだ! 私はまだ二十代だぞ!」
あっという間に賑やかになった。
食堂にいる人たちにも笑顔が浮かんでいる。
リッグスはみんなのために料理をし、メイリンは彼を笑顔で手伝っていた。
そんな光景を見てレダは思う。
みんなが無事でよかった、と。
そして、みんなのもとに戻ってこれてよかった、と。
だから、その想いをいっぱいにして告げたのだった。
「ただいま」
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