45「野盗たちの襲撃」③




「レダ」


「ユーリだったよね。こんな状況だ。悪いけど話はあとにして――いや、そうじゃない。君も治癒士なら力を貸してくれ」


「うん。わかってる」


「今までみたいに治療費を請求できないかもしれないし、嫌な思いだってするかもしれないぞ?」




 このような状況下で、治癒士の高額請求を支払えるものは早々いないだろう。


 また、治癒士を恨んでいる人間に、なにを言われるのかもわからない。




「別に気しない。お金は僕じゃなくて、雇った人が勝手に請求していただけだから。僕もこの町に住んでいるから、みんなを助けたいと思う」


「ありがとう。この件が片付いたら弟子でも、従業員でもなんでもしてやるから、頼んだぞ!」


「うん! 任せてほしい!」




 ユーリの力を借りることができたのは嬉しい。


 ひとりでも多くの人が救われてほしい。




「ミレットさん!」


「はい!」


「この子、ユーリは知っていますね」


「え、ええ、治癒士ですのでもちろん存じています」


「彼女を連れて行ってください。助けになってくれるそうです。治療をさせてください」


「……わかりました。今はレダさんを信じます。お願いします、ユーリさん」


「ん、わかった。レダ、気をつけてね」


「ああ、君も」


「レダさん、ミナちゃんたちを連れてギルドにきてくださいね! でも、無理そうなら籠城してください! 身の安全が第一です。いいですね!」


「わかりました。ミレットさんも気をつけて!」




 レダは彼女たちの無事を祈ると、娘たちと合流するために駆け出した。


 だが、邪魔はすぐにやってくる。




「おい、住人だ! 掴まえろ! いい金になるぞ!」


「馬鹿野郎! おっさんなんていらねえよぉ。女だ、女を捕らえろ! 男は殺せ!」




 宿屋まであと少しという場所で数人に囲まれてしまうが、レダが慌てることはない。


 ボロ同然の鎧、錆びきった剣を持つ野盗に怯えるような時間がもったいなかった。




「こっちはドラゴンと戦ったことだってあるんだ! お前らなんかに、今さらビビるかよ!」




 レダは魔力を高め、風刃を放った。


 こちらを殺そうとしている相手に一切の容赦も躊躇いもない。


 風の刃が荒れ狂い、野盗たちの腕や足を切り飛ばしていく。




「ぎゃぁああぁああぁあああああああっ!? 俺のっ、腕ぇっ!?」




 悲鳴をあげて地面に転がる男たち。


 命を奪わなかっただけでも感謝してほしい。


 呻く野盗たちを無視して、再び宿を目指す。


 途中、住人を襲っている野盗を何人も倒し、救出した人たちを避難させた。




「ひぃいいいいいっっ、誰かっ、誰か助けてくれぇ!」


「――ちっ、早くミナたちのところへいきたいのに!」




 それでも悲鳴を無視することなどできるはずもなく、レダは声の主を探して走る。


 すると、三人の野盗に囲まれ、今にも斬られようとしている青年がいた。


 レダは男たちが青年に集中している隙に背後から風刃を放ち、野盗たちの剣を握る両腕を切り飛ばした。


 野盗たちだけではなく、腕の切断面から飛び散った鮮血を浴びた青年も一緒に悲鳴をあげた。




「おい、大丈夫か? しっかりしろ」


「あ、ああ、助かった、ありが――っ、お前は、レダ・ディクソン!」




 尻餅をついていた青年に手を差し伸べると、彼は驚愕を浮かべてレダの名を呼んだ。




「俺を知っているのか?」


「知らないわけがないだろう! 私はこの町の治癒士、ネクセン・フロウだ!」


「あんたがもうひとりの治癒士か……こんなところで会うとは思わなかったよ。だけど、今はそんなことはどうでもいい。とにかく、今はどこかの建物にでも逃げていてくれ」




 まさか一日で、ふたりの治癒士と出会うことになるとは思いもしなかった。


 だが、今は彼に用はない。


 冷たいようだが、優先すべきものが違うのだ。


 レダはネクセンに逃げるように告げると、去ろうとする。


 が、




「ま、待て! 私を見捨てる気か!」




 ネクセンがレダの足にしがみついてきた。




「俺には俺の大事な人がいるんだ! お前に構っている暇はないんだよ!」


「私は戦えないんだ! 治癒士に野盗をどうしろというんだ!」


「知るか! ……ったく、そんなに野盗がおっかないならついてこい。いくぞ」




 結局、レダはネクセンを見捨てることなどできず、宿まで連れていくことにした。




「ま、待ってくれ!」




 おっかなびっくり追いかけてくるネクセンと一緒に、レダはなんとか娘たちがいるであろう宿屋に戻ることができた。






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