44「野盗たちの襲撃」②
「なにが起こっているんだよっ!」
レダは町に響き渡った悲鳴の主を探して走る。
ユーリも彼の後を追いかけていた。
「レダ、あれを見て」
「――っ、おいおい、嘘だろ!?」
思わず足を止めてしまったレダの視界の中では、アムルスの町の外から壁を登って侵入してくる野盗たちの姿がった。
「あそこだけじゃない。あっちにも」
ユーリが指差したのは、出入り口のひとつ北門だ。
そこには五十人近い野盗たちが武器を持ってなだれ込んでくるのが確認できた。
奴らの足元には、血を流して倒れている門番の姿もある。
「――ち」
レダはとっさに彼らの治療をすべく走り出そうとした。
が、それを止める者がいる。
「待って」
ユーリだった。
彼女はレダの腕を両手で掴み、行かせないと力を込める。
「離してくれ!」
「無理。気持ちはわかるけど、あの人たちは治療できない。治療中に野盗に邪魔され、捕まっておしまい。なら、今は逃げるべきだと思う」
「……わかってる。わかってるよ!」
ユーリのおかげで冷静さを少し取り戻したレダは、逃げる選択をした。
だが、最低限すべきことは忘れない。
「野盗だ! 野盗が町に攻め込んできた! 近くの建物に入って鍵を閉めろ! 早く! 早くするんだ!」
せめて未だなにが起きているのかわかっていない住民たちに、危険を知らせようと走りながら必死に声を上げ続けた。
その声に、それぞれが動き始める。
露天の店主は荷物を放棄して逃げ出し、近くの民家に助けを求めた。
子供の手を引く母親が、武器屋の中へと逃げ込んでいく。
「よし、俺たちもいこう」
「どこへ?」
「宿屋だ。俺の仮住まいだよ。娘たちと合流しないと」
「……うん。わかった。私もついていく」
「ああ、そうしてくれると助かる。君をひとりにはできないしね」
レダは断りを入れることなくユーリの手を繋ぐと、宿に向かって走り出した。
しかし、簡単に宿屋にはたどり着けない。
すでに野盗たちは町の中に侵入しており、いたるところに姿がある。
レダだけなら戦闘になってもいいが、ユーリが戦えないと言ったので見つからないように移動するしかなかった。
「レダさん! よかった! 無事だったんですね!」
路地の陰に身を潜めていると、聞き覚えのある声をかけられ振り返る。
すると、そこには冒険者を率いた冒険者ギルド職員ミレットの姿があった。
「ミレットさん! 無事でしたか!」
「ええ、幸いなことに冒険者ギルドを襲うほど奴らも馬鹿ではないみたいです」
「領主様の屋敷は?」
「皆様お屋敷にいたのでご無事です。冒険者と自警団を配備しました。といっても、貴族に手を出したら、地の果てまで追われますからね、よほどの愚か者でなければ領主様には害を与えないでしょう」
わずかに安心できた。
領主家族がどうしているのか心配だったのだ。
これでひとつ憂いが減った。
「奴らはどこから来たと思いますか? ずいぶんと数が多いみたいですけど」
「北に五十、南の五十、壁を超えてきたのも五十。全部で百五十くらいだとこちらでは判断しています」
「……そんなに」
「とはいえ、その程度では町は落とされません。しかし、冒険者のみなさんが外に出ているタイミングで現れたのは少々都合が良過ぎますね」
町にとっては最低のタイミングでの襲撃だ。
「昨日、馬車を襲撃した野盗が、近隣の野盗と合流したのでしょう。この数だとそうとしか思えません」
「やってくれる。だけど、どうして急に、今なんでしょうか?」
「おそらくは、最近、野盗を厳しく取り締まっていましたから……奴らを追い詰め過ぎたのかもしれません」
「アムルスの町はあいつらに勝てますか?」
「もちろんです。自警団も、冒険者もすでに戦っています。外から捜索隊が戻ってきてくれれば、背後からも攻めることができます。負けたりしませんよ」
彼女の言葉に安堵する。
もうレダにとってアムルスの町は大事な場所なのだ。
野盗などに駄目にされてたまるものか。
「俺に何かできることはありますか?」
「実は、レダさんに助けて欲しくて探していたんです」
「緊急事態ですからなんでも言ってください」
「ありがとうございます。すでに怪我人が多数出てます。治療をお願いできますか?」
「もちろんです。だけど、その前に、家族を迎えにいかせてください。心配で、心配で」
「ええ、わかっています。私もミナちゃんたちがどうしているのか心配でした。ですが、道中お気をつけて。まだ野盗はたくさんいますから」
「ありがとうございます」
心配してくれるミレットにレダは感謝し、礼を述べた。
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