41「弟子入り?」①
捜索隊から連絡はなく、もやもやしながらレダは患者たちの治療を終えて帰路についていた。
今日は珍しくひとりだ。
娘たちは、ヒルデガルドと三人で友好を深めている。
訂正。友好を深めさせている。
日課となっているリッグスの宿の手伝いに、買い出し等を行なってお小遣いを稼いでいるミナとルナに、名目上は護衛としてヒルデガルドをつけていた。
仮に暴漢に襲われることがあってもルナがいるので心配していないが、そこにヒルデガルドもいてくれるとなお安心だ。
(ま、一番の目的はルナとヒルデが仲良くしてくれることなんだけどさ)
ふたりは出会ってからよく喧嘩する。
険悪なものにはなっていないのは、両者の性格からだろう。
原因はレダなのだが、こればかりはどうにもならない。
ならばふたりに仲良くなってもらおうと、と考えているのだ。
「だけど心配だなぁ」
感情的になりやすいルナが町中でナイフを抜いていないことを願う。
ヒルデガルドもヒルデガルドで応戦しようとするため、どこかで喧嘩していないといいなと思わずにはいられない。
「ねえ、君がレダ・ディクソン?」
家族たちを心配しているレダに突如声がかけられる。
「えっと、そうだけど、君は誰かな?」
振り返るとそこには少女がいた。
年齢はルナよりも少し年上くらいだろう。
片目を隠した青髪のショートカットがよく似合う子だった。
「僕はユーリ・テンペランス。この町の、治癒士だよ」
「――っ」
レダは己の目を疑った。
目の前の少女がこの町の治癒士であるということに驚いたのだ。
(こんな女の子が治癒士なのか? ……とてもじゃないが、お金にがめついようは見えないんだけど、人は見かけによらないんだな)
どこかぼーっとしているようにも伺える少女は、とてもじゃないが欲深いようには見えなかったのだ。
「俺になにか用かな?」
「うん。君の噂は聞いているよ。あのヴァレリー様を見事治療してみせたんだね」
「……そっか、ヴァレリー様のことを知っていたんだね」
「そう。私も治癒士だから領主様から依頼はあったけど治せなかった。でも、最近、ヴァレリー様を治した人がいると聞いた。それが君だと」
「ああ、確かに俺がヴァレリー様を治した」
「僕はそんな君にお願いがあってきた」
「お願い?」
「うん。僕を弟子にしてほしい」
「――ん? んん? はぁ!?」
なにを言われたのか理解できず、首を傾げたレダだったが、彼女の言わんことを理解して驚きの声をあげた。
同時に頭痛が襲ってくる。
アムルスに治癒士は目の前の少女ともうひとりしかいない。
その治癒士がなぜ自分に弟子入り希望するのか不明過ぎた。
彼女にとって自分は決して友好的な相手ではないはずだ。
つい昨日、回復ギルド職員のアマンダとやりあったばかりのレダはむしろ敵だろう。
(なにか企んでいるのかな? アマンダになにか命令されているとか)
様子を伺ってみるも、感情がよくわからない顔をしてじっとこっちを見ているだけだ。
(うん。わからないな!)
「それでどうかな。僕を弟子にしてくれる?」
「アマンダから俺に近づけって命令されたのか?」
「アマンダ? 誰それ?」
こてん、と首を傾げる少女は嘘をついているようには見えない。
「回復ギルドの職員だよ。この町に来ているんだけど、知らなかったのか?」
「うん。会ってない。僕は回復ギルドに所属はしているけど、それは親が治癒士だからだし。ギルドはお金を要求するだけで、とくにそれ以外ないかな」
「じゃあ説明しておくけど、俺は回復ギルドから敵視されているんだ。俺だって回復ギルドを好きじゃない。だから回復ギルドに所属しているなら俺に関わらないほうがいいと思う」
「それだと僕が困る」
「どうして?」
「最近、患者さんがこないんだ。聞けば、町中が君のことを頼りにしていると聞いた。それだと僕が魔法を使えない」
「……魔法を使えない?」
お金が稼げないではなく、魔法を使えないことが不満らしいユーリにレダは首を傾げる。
いまいち、この少女の言いたいことがわからないのだ。
「うん。僕は魔法を使うことが好きなんだ。患者さんの怪我が癒えていく瞬間を見てると、とてもゾクゾクする」
「……あ、なんかこの子危ない」
「なのに、最近、患者さんが来てくれないから、魔法が使えない。だから君の弟子になることにした」
「そこがわからないんだよな。俺の弟子になってなにになるんだ?」
「冒険者ギルドが君のために診療所を作ると耳にしたよ。僕もそこで働かせてほしい」
「は? 君が?」
「うん。だって、患者さんがこないなら、僕のほうからいかないと」
「そんな理由なの?」
「きっと魔法が使いたいほうだい。患者は元気になって僕も幸せ。素敵な職場になる」
回復魔法を使いたい。それだけの理由で、回復ギルドに所属している治癒士が、回復ギルドと敵対しているレダと一緒に働くという。
間違いなく、厄介ごとだった。
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