36「再会と女の戦い」②
「いいわ。じゃあ、こうしましょ。戦って勝ったほうがパパの奥さんよ。いいわね?」
「いいだろう。集落一の戦士として、いいや、レダに惚れた女としてその勝負に勝ってみせよう!」
「はっ、パパにメスの顔見せてんじゃねーよ! そのツラ、ズタズタにしてやる!」
「はい、そこまで!」
額をぶつけて睨み合うルナとヒルデガルダの頭をレダが引っ叩いた。
「ふたりとも奥さんにした覚えはありません。ていうか、歓迎会なのに戦ってどうするんだよ。仲良く、しなさい、ほら、握手して」
自分に好意を抱いてくれているのは流石にわかるし、嬉しいとも思う。
だからといって、戦われては困る。
(俺がはっきりと返事をしていないのも原因なんだろうけど……それはごめんとしかいえない)
レダにとって、ルナは大切な家族だ。
彼女からの好意が異性としてのものであることも、もうわかっている。
だが、彼にとってルナを異性としてみるのは年齢的にも立場的にも問題だろう。
ヒルデガルドも好意を隠さずまっすぐだ。
彼女は戦友であり、友人である。
レダは、かつて恋人がいた。
はっきりいって恋人と呼んでいいのかわからないような付き合いだった。
恋愛をしていたわけではない、寂しさと流されるように交際をしたのだ。
そんな恋人に手痛く振られているので、しばらく男女の付き合いはごめんだと当時は思っていた。
今は、正直わからない。
もともとレダに恋愛経験はない。
田舎で畑を耕していたころも、同世代の女性はおらず、年上か年下ばかりだった。
年上には弟と、年下には兄として関わってきたこともあり、恋愛に発展したことは一度もない。
つまり、彼女たちの気持ちは嬉しいが、どうしていいのかわからなかった。
ようは経験不足なのだ。
「……パパがそう言うなら。ん」
「……大人気がなかったな。すまなかったなルナ。私のことはヒルデと呼んでくれ」
「別にいいわよ。よろしくねヒルデ」
少女たちが握手を交わす。
――が、両者の手にはぎりぎりと力が込められ、血管が浮いていた。
「あれー、なんか痛がってない? あたし、そんなに力入れてないんですけどー。痛いなら、そろそろ離してもいいのよ。パパ以外と手をつなぐ趣味ってないから」
「なに平気だ。おや、君こそ涙目になっている気がするが?」
「なにそれー。気のせいじゃない? ていうか、ヒルデこそ、歯を食いしばってなくない? あれ? 力入れちゃってるの? これで?」
「――ふ。いいだろう。君がそういう態度なら、やはり決着をつけるとしよう」
「いいわよぉ。その干からびたミイラみたいなカッサカサの手を握りつぶしてあげるからぁ」
険悪な雰囲気こそないので安心だが、どうやらルナとヒルデガルドは一度決着をつけなければ気が済まないようだった。
「はぁ……またはじまった」
戦いこそしていないが、お互いにこれでもかと手に力を入れて握手している。
きっと痛いのだろう、ふたりも涙目だ。
「お腹いっぱい! ごちそうさまでした! おとうさん、おふろいこ?」
喧嘩ばかりしている姉を放置して、食事を終えたミナがレダの手をとって、浴室に連れて行こうとする。
泥で汚れていた自覚があったレダは、とくに難しく考えることなく頷いた。
すると、置いてきぼりを食らったふたりが慌てだす。
「ちょっ、ミナ! お姉ちゃんを置いていくなんて酷くない!? あたしもお風呂いくから!」
「む――私の歓迎会なのだから、レダが全身くまなく洗ってくれるのだろうな?」
「そんなサービスやってません!」
パッと喧嘩をやめて、追いかけてくるふたりを尻目にレダは思う。
(もしかしたらミナが狙ってお風呂行こうっていたんじゃないかな?)
だとしたら、ミナの助けられたことになる。
しかし、
(本当に四人でお風呂に入ったりしないよね?)
不安がよぎる。
この宿には家族風呂もある。
そう大きいものではないが、レダたち四人が入るくらい問題なかった。
その後、少女たちに家族風呂に引きずり込まれそうだったが、激しい攻防の末、レダはのんびりと男湯にはいることができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます