31「心配事の解消」
冒険者ギルドで会議が行われている頃、レダは愛娘のルナとミナと一緒に、間借りしている宿屋の部屋にいた。
当初、会議に呼ばれていたレダだったが、娘と話がしたいからといって断りを入れている。
その際、診療所に関してはギルドに任せると告げていた。
「おとうさん、おはなしってなに?」
「どうしたのパパ? なにか困ったことでもあるの?」
難しい顔をしていたせいか、娘が揃ってレダを心配そうに伺ってくる。
「ごめんごめん、そうじゃないんだ。実を言うと、ふたりに伝えておきたいことがあってね」
「もうっ、伝えたいことって、プロポーズならふたりっきりのときじゃないと雰囲気がね?」
「違うから、まったくルナはすぐそういう話にするんだから。今回は真面目にいこう。いいね?」
「あたし、いつだって大真面目なんですけどー」
「わかったわかった。じゃあ話を進めるけど、君たちが囚われていた組織がなくなった」
「へ?」
「え? ちょ、パパ? どういうこと? ていうか、どうしてパパがそんなこと知ってるのよ!?」
突然すぎるレダの言葉に、ミナは呆然とし、ルナは慌てて問い詰める。
ふたりに落ち着くように告げると、続きを話していく。
「実を言うと、少し前から知り合いのツテを使って調べてもらっていたんだ。今はこうして平和に暮らしているけど、もしも組織がふたりを取り戻しにきたらどうしようかずっと不安だった。だから、探りをいれていたんだけど」
「その組織が潰れちゃったってこと?」
「そうなんだ」
「どうして?」
「勇者に壊滅させられたらしい」
「はぁ? 勇者って、あの勇者?」
「そう。その勇者」
――勇者。勇気ある者。勇敢なる者。
聖剣に選ばれた人間の最強兵器である。
長年、その座は空位だったが、三年ほど前にひとりの少女が勇者に選ばれた。
以来、勇者は戦い続けている。
「待って待って! どうして勇者があの組織を潰す必要があるのかわかんない。そりゃ暗殺組織だから庇う要素ゼロだし、潰されてせいせいしたっていうか、ザマーミロって感じだけど、どうして勇者が出てくるの?」
「俺もよくわからないんだけど」
「けど?」
「勇者曰く、正義執行らしい」
「うん、意味わかんない」
「だよね。ただひとつだけ言えるのは、もうルナとミナを脅かすものはなくなったんだ。これでずっと一緒に居られるんだ」
レダが姉妹にそう告げた瞬間、ルナが腕の中に飛び込んできた。
続いてミナも、
「おねえちゃんばっかりずるい!」
そう頬を膨らませてレダの背中に覆いかぶさった。
「おとうさんとおねえちゃんとずっといっしょだね!」
「ああ、ずっと一緒だ」
「やったー!」
純粋の喜び、頬ずりしてくるミナ。
彼女の体を片腕で抱きしめて、絶対に離すものかと力を入れた。
「……パパったらずっと一緒にいたいなんてかわいいこといわれたら、下腹部がきゅんきゅんするんですけどぉ」
「やめなさい」
「ふふっ、ふふふっ、ふ……うぇえええん、あぁあんっ、よかったぁあああああ」
最初こそ、からかう言動だったが、すぐにルナは泣き始めた。
きっとレダ以上に、組織の存在を不安に思っていたのかもしれない。
だが、もう解放された。
ルナを苦しめた組織はもう存在しない。
「あたしね、いつか組織が追いかけてくると思ってたの」
「うん」
「パパに迷惑かけるんじゃないかって、ミナを危険な目に遭わせるんじゃないかって、ずっと不安だったの!」
「大丈夫、わかってるよ」
ルナは優しい子だ。
ずっと家族に害がないことを願ってくれていたのだろう。
その願いが叶ったのだ。
感情が制御できず泣いてしまうのも無理もない。
「この町の人たちだって、みんないい人たちばかりなのに、あたしのせいで迷惑かけるんじゃないかって、ずっと怖かったんだからぁ」
「大丈夫だよ、ルナとミナと俺でずっと一緒にいよう」
「ずっといっしょだよ、おねえちゃん」
「俺たちはなにがあっても家族だ。引き離せるものなんてない。そうだろう?」
「うんっ! ありがとパパ」
「おとうさんだいすき!」
笑顔の下で過去に怯えていた少女は、この日、解放された。
こうして三人は家族の絆をさらに深めるのだった。
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