29「会議と乱入者」③



 突然の乱入者は亜麻色の髪を三つ編みにした美女だった。


 まだ年齢は二十歳ほどだろう。生真面目そうな雰囲気を持つ、涼しげな女性だ。




「あんた誰だよ?」




 代表してテックスが乱入者に問う。




「回復ギルド職員のアマンダ・ロウです。私はレダ・ディクソンに診療所を準備することを反対します。もし、診療所が欲しいと言うのなら、すでに開業しているこの町の治癒士に頼るのが筋ではないでしょうか?」


「はぁ?」


「ま、待ってください! 回復ギルドの職員は、この会議に関係ありません! 直ちに出て行ってください!」


「そうはいきません。会議をしているところを申し訳ないと思いますが、内容がレダ・ディクソンに関することであれば放置できません」


「あんたよぉ、さっきからずいぶんレダが気に入らねえようだが、あいつがなにをしたって言うんだ?」




 その質問を待っていたとばかりに、アマンダが胸を張った。




「彼は治癒士でありながら回復ギルドに所属していないはぐれです。そんな彼を優遇し、以前から町に貢献してきたほかの治療士をないがしろにすることを、私たち回復ギルドはよしとしません!」


「はっ、貢献ねぇ……笑わせてくれるぜ」


「なにがいいたいのですか?」




 鼻で笑ったテックスをアマンダが睨みつける。


 が、彼は気にすることなくはっきりと言った。




「いやなに、奴らがどうこの町に貢献したのか教えてもらいてぇってことさ」


「まるで彼らがなにも貢献していないような言い草ですね」


「言っておくけどな、お嬢さん。俺たちは、ギルド、冒険者、商人とそれぞれの立場が違っても、ここアムルスに骨を埋めようと覚悟している人間たちだ。その俺たちがあえて言ってやる。お前さんのいう治癒士どもはこの町になにも貢献なんかしちゃいねえよ」


「――な」


「だいたい、レダのことをはぐれだなんだと言いやがるが、治癒士に回復ギルドへの所属義務はねえじゃねえか?」




 テックスの言葉に、アマンダ以外の一同が「確かに」と頷いた。


 大半の治癒士が回復ギルドに所属しているとはいえ、所属義務はないのだ。


 神官や、冒険者にも治癒士はいる。


 そんな彼らは回復ギルドに所属していない。


 なのでレダだけを「はぐれ」などと責める資格はアマンダたちにはないのだ。




「ええ、ええ、ありません。ですが、治療師は暗黙のルールで所属しています」


「それだって全員じゃねえはずだ。あー、あれか? お前さんたち回復ギルドが治癒士の寄付で成り立ってるから、ひとりでも所属を増やして寄付金が欲しいって腹か?」


「――っ。馬鹿にしているのですか!? 私たちがその気になれば、レダ・ディクソンに治癒士を名乗らせないことだってできるのですよ!」




 明確な脅しだった。


 だが、この場に、そのような脅しに屈するような人間はひとりもいない。




「言わせていただきますが、それならばレダさんにはお医者様を名乗ってもらいます。他にも、回復士という言葉をつくっても構いません」


「なにを馬鹿なことを」


「彼は肩書きなんて気にしたりしない立派な人です! レダさんは治癒士だから治療をしてくれるんじゃありません、レダさんがレダさんだから私たちを治療してくれるんです!」




 ミレットが憤りアマンダを睨んだ。


 お互いに睨み合う。


 なにかきっかけさえあればつかみ合いになるんじゃないかと思うくらい、お互いに気が高ぶっているのがわかった。




「レダ・ディクソンは回復ギルドのことを知らないゆえに、治癒士としての正しい自覚もできていません。それは、すべてあなたがた冒険者ギルド、冒険者、商業連合が自分たちの都合で、彼を安く使い潰そうとしているからです!」




 アマンダは苛立ちとともに言葉を吐き捨てていく。




「私は彼が他の治癒士をないがしろにする治療費で治療を行うことをよしとしません。ですが、彼は治癒士としてあまりにも自覚が足りず、無知でもあります。ならば、そこを直せば、あなたたちにいいように利用されようとはしないでしょう。私には彼を正す義務があります!」








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