18「急な患者」③
「ところでレダ」
「はい?」
「言うまでもないかもしれないが、君たちも気をつけてほしい」
「……また襲撃があるとお思いですか?」
「ああ、そうだ。私が君に使いを送った矢先の襲撃だ。ヴァレリーを呪った元凶はこちらを見張っているのだろうと考えている。巻き込んでしまった私が言うのもなんだが、今、君になにかあったら困る」
ティーダの心配は、アムルスの町全体の心配だった。
今、レダになにかあれば、彼の回復魔法に頼っているこの町は大ダメージを負うことになる。
冒険者をはじめ、町の開発に携わる者たちが万が一のときに頼れなくなってしまう。
レダのように格安の治療代で嫌な顔ひとつせず治療してくれる治癒士は、ティーダの知る限りひとりもいないのだ。
「大丈夫です。娘もいますから重々に気をつけます」
「そうしてくれ。すでにこうしてヴァレリーが出歩いているのだから、なにかしらの動きがあるかもしれん。くれぐれも警戒していてくれ」
「早く元凶が見つかるといいんですけどね」
「まったくだ。妹を安心させるためにも早く捕まえたい」
この会話の最中、ヴァレリーは自分のせいと思っているのか、その表情は暗い。
兄のティーダも、レダも、ヴァレリーが悪いわけではないと言っているのが、彼女自身が狙われているのなら、否応なく周囲を巻き込んでしまうということが嫌だという。
今日だって、兄にレダのところで治療するように勧めたものの、着いてくることに躊躇いを見せたらしい。
おそらく、狙われていることを怖いと思ったのだろう。
そんな彼女を半ば無理やりティーダが連れてきたという。
屋敷の中に引きこもっていてもなにもかわらないと考えているのだろう。
(なにか気の利いたことでも言ってあげれればいいんだけど……)
レダとしては笑顔のヴァレリーのほうがいい。
女の子は笑っていてこそ、だ。
元気付けようとなんとか言葉を探して口を開こうとした、そのとき。
「おいおい! うちは宿屋で食堂だぞ。病人だったら医者のところへ行ってくれ!」
リッグスの叫び声が聞こえた。
「リッグスさん?」
何事だと思い、レダが立ち上がる。
すると、宿の入口から男の苛立った怒鳴り声が聞こえてきた。
「黙れっ! ここに治癒士がいることは知っている! 早く出てこい!」
「……この野郎。それが人にものを頼む態度かってんだ?」
声だけで喧嘩が始まりそうだとわかる。
治癒士、と言っていたので自分に用があるのだろうとレダは判断すると、ティーダたちに断りを入れて席を立つ。
「何事ですか? ここはリッグスさんのお店です。迷惑をかけるんだったら出て行ってくれませんか?」
「黙れ! ああ、貴様が治癒士だな? ならば、栄誉をくれてやろう。感謝してムンザ様の傷を治療しろ!」
「はぁ?」
踏ん反り返ってそんなことを言い放ったのは、神経質そうな細い長身の男だった。
レダよりも年上のように見える。質のいい衣類を身につけているが、どこか気障ったらしく感じるのは彼の性格が服装に滲み出ているからだろう。
そんな長身の男の後ろには、使用人と思われる年若く体格のいい男性が四人で、担架に乗った太った中年男性を担いでいた。
おそらく彼がムンザだ。
商人のような格好をしているところから推測すると、アムルスでも一二を争う商人であるムンザ・エルジーだろう。
「……おいおい……これは……どうして、そんな」
レダは己の目を疑った。
ムンザという男は確かに治癒士を必要としていた。
左半身に目を覆いたくなるような酷い火傷を負っているのだ。
レダはこの火傷をまるで同じものをつい先日見たばかりだった。
「……こんなことってあるのか……この火傷はヴァレリー様とそっくりだ」
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