7「治療と解呪」①
特別隠していたわけではないが、レダは「解呪」を使うことができる。
先日、冒険者ギルドと話をしたときに、回復魔法だけではなく幅広く魔法を覚えたらどうか、と提案されたのだ。
単純にレダのスキルアップを望んでくれたこともあるだろう。だが、それ以上に、ギルドだけではなく住民にために治療してくれる彼への投資もあるはずだ。
レダが「回復」以外に「解毒」「解呪」などをはじめとする魔法を覚えれば、それだけ頼ることができる。
レダは破格な価格で治療をしてくれる稀に見る治療士なのだ。
ギルド側の期待も大きかった。
そして、レダはそれらを受け入れた。
普通、魔導書を自分で用意して魔法を学ぼうとすると、相応の金額が必要となる。
しかし、ギルドから無償で魔導書が貸し出されるのだ。
これはお互いに利益しかない。
ならば、ティーダへの返事も決まっている。
「もちろん、俺にできることならなんでもします」
「――っ、ありがとう!」
「ですが、不安もあるんです」
「不安? なにか必要なものでもあるのか? 言ってくれ、どんなことをしてでも用意してみせる」
「いいえ、そうじゃないんです。俺側の問題なんです。実は、「解呪」の習得はできました。でも、誰かに試したことがないんです」
単純に、レダに才能があったのか、それともミナの恩恵のおかげか不明だが、「解呪」の取得は簡単にできた。
おそらく、苦労の末取得した神官たちが激怒するほど、簡単に、だ。
だが、今日まで試すことができなかった。アムルスの町に、ヴァレリー以外に「解呪」を必要とする人間がいなかったからだ。
「まだ人に使ったことの魔法を使うので、失敗する可能性もあるかもしれません。必ずヴァレリー様をお救いすると言えずに申し訳ないと思いますが」
できることなら自信を持ってヴァレリーを救うと言いたかった。
しかし、無責任なことを言えなかったのだ。
「……わかっている。すまない。こちらの都合ばかり言ってしまっていたな。だが、それでも構わない。頼む」
「わたくしからもお願い致します、ディクソン殿」
領主夫婦はレダの言い分を受け入れた。
無理を言っているのが自分たちだという自覚もあるのだろう。
それでも、若くして心を閉ざすほど酷い火傷を負ってしまった家族を助けたいと願っているのだ。
「わかりました。全力を尽くします」
レダはそんなふたりの気持ちを察し、力強く頷いた。
そして、さっそく治療を始めることにする。
「それでは、シーツをめくりますね」
夫人がヴァレリーを体を覆うシーツをゆっくりと外していく。
薄手の寝間着を身につけたヴァレリーの姿があらわになっていく。
事前に聞いていたように、彼女の右半身に火傷が広がっている。
顔の火傷だけでも痛ましいというのに、半身となると思わず目を背けたくなってしまう。
(……こんなに酷い火傷を負っているのに、かわいらしさは健在なんだね。以前は、よほどかわいらしかったんだろうな)
不謹慎にも、そんなことを思ってしまった。
治療だと自分に言い聞かせながらも、ヴァレリーの火傷では消えることのないかわいらしさに目を奪われる。それゆえに、火傷の酷さが痛々しい。
レダの目に移るヴァレリーの肌は爛れているが、醜いとは微塵も思えない。
このような状況にも関わらず、薄手の無防備な彼女の姿に顔の熱さを覚えるほどだ。
「今から解呪を始めます。成功したら、そのまま火傷の治療に移っていきます」
「よろしく頼む」
「お願い致します」
期待と不安に満ちた領主夫妻の視線を受け、レダは頷いた。
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