2「パーティーメンバーとの再会」②




 ――いったいなにをしているんだか。






 レダは呆れ、天を仰ぐ。


 Bランクに昇格しようとしていた冒険者パーティーのリーダーがどう落ちぶれれば、野盗になってしまうのかわからない。




「レダさんがいなくなってから、あのパーティーは駄目になってしまったみたいっすよ」


「そんな馬鹿な……俺が首になったくらいで」


「いやいや、それは謙遜がすぎるっすよ! レダさんの回復魔法のおかげで前衛は攻撃だけに集中できていました。もちろん、装備面でも本来なら防御にお金をかけなきゃいけないのに、そっちは疎かにしていたんっすよ。レダさんがいたからっす」


「確かにみんな猪突猛進なところはあったけど。だからって」


「自分が知る限りっすけど、どうやらレダさんの回復魔法がないことを大したことじゃないと思っていたみたいっすね。だから怪我ばかりして、治療費が膨らんで借金まみれになったみたいっす」


「……なにやってんだよ」




 回復要員だったレダをクビにしたのは他ならぬジールだ。


 ならば、それ相応の対策をして冒険をするべきだった。


 怠ったのはパーティーリーダーであるジールの責任だろう。 


 無論、パーティーメンバーだって、各自、装備やポーションをしっかりしておくべきだった。


 負傷するたびに治療士に頼っていたら金が尽きるのも当たり前だ。




「それでみんなはどうしたんだ?」


「散り散りになってパーティー解散っす。ジールさんだけは、借金が膨らんだせいで夜逃げしたみたいで、借金取りからギルドを介して捕縛依頼が持ち込まれてましたよ。で、結局、借金が払えず、捕まりたくもなくて、そのまま野盗落ちっす」


「……言葉もないよ」


「自分も話を聞いたときには、もう苦笑しかできませんでしたよ。もうレダさんとジールさんが会うこともないっすね。自分としてはレダさんを不当に扱った罰を受けてざまーみろって感じっす」




 レダはアイーシャほどすっきりしない。


 なんだかんだと数年仲間だった人間が犯罪者に落ちたというのは気持ちのいいものではなかった。


 できることなら早く捕まって、改心してほしい。そしてできるなら、やり直してほしいと願うのだった。




「そういえば、アイーシャはこれからどうするんだ?」


「自分はこの町の自警団で働くっす。田舎に仕送りもしたいですし、冒険者よりも安定してお金ももらえるのでちょうどいいっす。それに、この町にいればレダさんに恩返しできるかもしれませんし!」




 確かアイーシャは、孤児院出身だ。


 決して裕福な孤児院ではなかったらしく、まだ幼い子供たちのために冒険者となって稼ぎたいと以前言っていたことを思い出す。




「俺のことはいいから、自分と故郷のために頑張ってよ」


「はいっす! ……あの、ところで、ずっと気になっていたんすけど」


「うん?」


「そちらのお嬢さんたちはどちら様っすか?」




 アイーシャの視線が、空気を読んで静かにしていた少女ふたりに注がれる。


 続いて、ジト目でレダを見た。




「ふたりともかわいい子っすね……まさか、誘拐っすか?」


「違うよ! どうしてそうなるんだよ!」


「はははは、冗談っすよ! 重騎兵ジョークっす!」




 よくわからないことを言いながら、アイーシャは少女たちと目を合わせてから、軽く頭を下げた。




「はじめましてっす。自分は、アイーシャ・オールロっす。レダさんにはとてもお世話になりましたっす」


「むすめのミナ・ディクソンです!」


「妻のルナ・ディクソンよ」


「ちょっと! ルナ! 君ね、誤解されたらどうするのだ!」


「はぁ……娘さんと奥様っすか……娘さんは結構大きいっすね、その前に奥様若すぎません? 自分よりも年下じゃないっすか!?」




 さりげなく妻を自称したルナの頭を軽く叩くと、真に受けてしまったアイーシャに訂正する。




「ふたりとも娘だからね」


「いえ! 隠さなくてもいいっす! レダさんが歪んだ年下趣味でも、自分は尊敬の念をなくしたりしないっすから!」


「――ちょ!」


「男の人の性癖ってどこか歪んでるって聞いたことがあるっす。大丈夫っす。自分はありのままを受け入れるっす」


「そんな理解いらないから! ていうか、誤解だから!」


「うふふ、よかったわね、あなた。この人ったら、あたしにパパって呼ばせて興奮してるのよぉ」


「うわぁ、パパプレイっすか! 難易度が高いっすね……さすがレダさんっす!」


「なにがさすがなのか俺にはよくわからないかな! どうして真に受けちゃうかな! ルナも、変なこと言わないの!」




 好き勝手に言うルナを止めてくれる人間はこの場にいない。


 ちゃんと自己紹介したミナも「おねえちゃんたのしそう」と微笑んでいるだけだった。




「ねえねえアイーシャさん、あたしね、パパが王都でどんなことしていたのか知りたいなぁ」


「わたしもわたしも! わたしもしりたい!」


「そうっすね、レダさん、いいっすか?」


「冒険者の日常なんて大したことないと思うんだけど……それでもよかったら話してあげて。自分で話すのはちょっと恥ずかしいや」


「おまかせくださいっす! いかにレダさんのおかげで自分が助けられたのかお話しさせていただくっす!」


「あ、なんかすごく不安になった」


「とくに女関係を詳しく教えてほしいわ。あたし以外に女の影があったら困るからちゃんと把握しておかなくちゃ」


「あのね、ルナ。君は娘だから。むーすーめー!」


「ふふっ、成人するまでの間ね。一ヶ月後が楽しみね」




 艶のある笑みを浮かべて唇を舐めるルナに、不覚にもどきりとした。


 この少女はどうも色気があって困る。


 もうひとりの娘は、アイーシャから少々大げさ気味なレダの活躍をさっそく聞いて瞳を輝かせていた。


 その後、食堂の一角で三人はそのまま女子会とばかりに盛り上がっていく。




 少女たちのノリについていけなかったレダはひとり寂しく、部屋に戻って魔道書を読んで勉強を再開するのだった。


 娘たちが満足して部屋に戻ってきたのは、日が暮れてからだった。








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