1「パーティーメンバーとの再会」①
「お久しぶりっす、レダさん!」
「……アイーシャ? アイーシャ・オールロか?」
厚手の鎧を身に纏い、身の丈ほどのバトルアックスを背負った小柄な重騎兵の少女に見覚えがあった。
藍色の髪をショートカットにした快活さと快活さが印象によく残る、そんな少女だ。
彼女の名はアイーシャ・オールロ。
レダの所属していた冒険者パーティー「漆黒の狼」に入ったばかりの新人冒険者だった。
「どうしてこんなところに?」
「それが聞いてほしいっすよ!」
「あ、ああ」
「自分、漆黒の狼をやめたんです」
「はい?」
「っていっても、結構前なんですけど。自分、レダさんがクビになったって聞いて、ふざけんなってリーダーに抗議したっすよ。そうしたら、不満があるならやめろって言われて、じゃあやめてやるっす! って感じで」
「……そんなことがあったのか、知らなかったよ」
レダはパーティーリーダージールに解雇通告されたことは今でも苦い記憶だ。
彼を恨んでいるかと問われれば、否だ。
他のパーティーメンバーとは挨拶もせずに王都を飛び出したが、実をいうと「役立たず」と罵られるかもしれないと思って会うのが怖かったというのもある。
「あんなにレダさんにお世話になっておきながら、よくクビになんてできたっすよね!」
「ありがとう。アイーシャがそう言ってくれるだけで救われるよ」
「そんなことないっすよ! 自分だって、駆け出しだからって怪我ばかりしたのを何度レダさんに助けてもらったかわからないっす! ソロで少し冒険してみたっすけど、怪我しては治療費でお金が飛んでいきますし、ポーションは高いし、治療士なんて悪魔みたいに金ふんだくるしで、レダさんがどれだけ自分たちよくしてくれたのか思い知ったっす!」
レダも、アイーシャがよく怪我をすることだったと覚えている。
重騎兵という先頭で戦う役目を持ち、さらに十六歳と若いため勇猛だった。
少々、猪突猛進なところもあったが、そこは彼女の美点だろう。
そんなアイーシャが、自分のためにジールとぶつかりパーティーをやめたというのは、嬉しかった。
彼女のためを考えると、悩むところではあるが、突然すぎる解雇に憤りを覚えてくれた人間がいることにレダは救われたのだ。
「もともとレダさんは自分の面倒をみてくれてました恩人っす。……あまり悪口みたいで言いたくはないっすけど、他のメンバーは自分のことを壁くらいにしか思っていませんでしたし。レダさんだけっすよ、ちゃんと扱ってくれたのは」
「……アイーシャ」
怪我が多かったアイーシャではあるが、それ以上にタフだった。
生半可な攻撃は、重装備と彼女自身の剛力から弾いてしまうほどだ。
レダだって彼女に助けられたことは一度や二度ではない。
「湿っぽい話はやめるっす! それよりも自分はレダさんを追いかけてきたんすよ!」
「俺を?」
「そうっす! せっかくならレダさんに恩返ししようと思ったっすよ! 結構、無理してレダさんがこの町にいることを聞き出して、商人の護衛をしながらようやくたどり着いたっす」
「俺なんか追いかけてこなくても、アイーシャならいろいろ仕事はあるだろうに」
「そんなことないっすよ! でも、この町に来てまさかレダさんが大活躍しているとは思わなかったっす! もともと回復魔法を使えたのはお世話になっていたから知ってましたけど、凄いことになってるっすね!」
「ははは、俺自身が驚いているよ」
活躍する場を与えてもらったこともそうだが、ミナの恩恵のおかげで実力以上を発揮して多くの人を救えていることも理由だろう。
町の治療士が治療代が高すぎるというのもレダの出番の理由でもある。
「実を言うと、また一緒に冒険したかったっすけど、治療士として成功したのならわざわざ危険な冒険にでることもないっすよね」
実をいうと、まだ冒険者に未練があるのだ。
もともと冒険者に憧れて、二十五歳と言う年齢で冒険を始めたのだから。
だが、今のように人の役に立つのは嬉しいし、娘がふたりいるので無茶なことができないというのも本音だ。
「いやー、レダさんとジールさんとじゃ、えらい差がつきましたねー」
「どういうこと?」
「あれ? 知らなかったっすか? ジールさん、今は野盗になっているらしいっすよ」
落ちぶれちゃいましたしねー、ぷふふ。と笑うアイーシャに、
「――は?」
レダは己の耳を疑った。
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