45「家族になるためのステップ」②
「……おねえちゃん」
「はぁい。久しぶりね、ミナ。会いたかったわ」
ルナと名乗った褐色の美少女がミナに手を振る。
ミナはどこか怯えた様子を見せながらも、彼女のことを姉と呼んだ。
「君がミナのお姉さんだって?」
「そうよぉ。似てないっていいたいとか?」
「いや、雰囲気がどことなく似ているかもしれないけど」
レダの目には、ミナとルナは肌や髪の色がはっきりと違うものに見える。
しかし、どことなく雰囲気が似ているように感じたのだ。
動揺を隠しながら、なんとか返事をするとルナは教会の屋根から軽やかに飛び、宙で一回転して音もなく地面へと着地した。
(この子……かなりの実力者だ)
子供だと侮ってはいけない。
レダの本能がそう言っていた。
三階ほどの高さから躊躇なく飛び降りる度胸も、平然と着しした技量も、年齢以上だ。
「さ、帰りましょ」
ルナはそう言って、ミナに手を差し出した。
だが、ミナは姉の手を取ることなく、首を横に振る。
「い、いや」
「あたしだってあんな悪党どもの巣窟へあんたを連れて行きたくないけど、あたしは連れて帰れって命令を受けてるの」
「待て待て! 待ってくれ! 俺にもわかるように話をしてくれ!」
「えー、どうしておじさんに丁寧に話してあげないといけないのー? これ、家族の問題なんですけどぉ」
「家族と言うのなら、俺とミナだって家族だ」
「ふぅん。あーそー。じゃあ、教えてあげちゃおうかな」
「やめて!」
説明しようとしたルナを遮ったのは、他ならぬミナだった。
そんな妹の態度に、姉は楽しそうに笑う。
「ふふふっ、おじさん、わかった? ミナってば、おじさんに知られたくないことがあるみたいよ?」
「知られたくないことだって?」
「お姉ちゃんとしては黙ってあげたいけど、この年下の女の子にプロポーズするような変態おじさんを黙らせるためには、いろいろ教えてあげたほうがいいんじゃないかなーって思うのよね」
「……言っておくけど、俺はミナにプロポーズしたわけじゃないからね。家族になろうって言ったんだ」
「あれ? そーいうのがプロポーズっていうんじゃないの? ま、いいや」
指先でナイフを弄びながら、子猫のような笑みを浮かべてレダとミナの顔色を伺うルナ。
そんな姉にミナは今にも泣きそうだ。
なにか知られたくない秘密があるのだとわかった。
「あのさ、おじさん。ミナと出会ってから、調子いいなーとか、自分でもあれ? って思うことない?」
「どういう」
「いいからいいから、ちょっと考えてみてよ」
「調子がいいこと? ――それは」
心当たりならある。
まず回復魔法が今まで以上に使えたことだ。
続いて攻撃魔法だ。
主戦力としてではなく回復要員だったレダではあるが戦闘経験はある。
だが、レダ自身が覚えている限り、先日に魔狼やドラゴンと戦ったときに発揮した力を持っていたとは思えない。
「ふうん。その冴えない顔を見ている限りじゃ、心当たりあるんだぁ?」
「おねえちゃん……やめて」
「ふふふ、やめてあげなーい」
妹の願いを一蹴し、ルナは続けた。
「実を言うと、おじさんのこと見てたんだよ? 冴えないけど、あたしが知っている大人よりは断然マシ。合格点をあげてもいいけど、ロリコンなのがちょっと嫌ねー」
「ありがとうと言えばいいのか、俺は変態じゃないと怒ったほうがいいのか対応に困るね」
「あははーっ、好きにしていよ。でも、そろそろわかってきたんじゃない? ミナにどんな力があるのか?」
「ミナの、力?」
「そ。おじさんってミナと出会ってから、いい思いしているんでしょ。割と順風満帆……違う?」
言われればそうだ。
ミナと出会う前は、毎日がうだつの上がらない日々だった。
パーティーを突然クビになり、名ばかりの恋人には金づるにされていたとわかった。
しかし、ミナと出会ってから、出会う人はいい人ばかり。
回復魔法を使うことで感謝をされた。
今では、ギルドから直接仕事をもらい、治療士の真似事をしている。
以前と比べれば、考えるまでもなく順風満帆だ。
「それがミナのおかげだったとしたらどうする?」
「まさか……ミナが幸運を呼ぶとでもいいたいのか?」
「違うってば。そんなんじゃないわよ。だけど、うーん、ちょっと似ているかもね。この子はね、ギフト持ちなの」
「……ギフト、つまり恩恵を持っているってことか?」
「そういうことっ。ギフトの力は、対象者の力を増幅させること」
「――っ、それはつまり」
「おじさんの最近の好調は、おじさんの力じゃなくてミナのギフトのおかげってこと」
わかる? と、小悪魔めいた顔でルナが尋ねた。
「つまりおじさんは、しらなかったとはいえミナのことを利用してたのよ。なのに、家族になろうだなんて……あたし笑っちゃうんですけど。ミナのこと何も知らないくせにっ、適当なことしようとしてんじゃないわよ!」
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