41「一時の別れ」




「レダ、少しの間だけ会えなくなるが寂しがることはない。すぐにお前たちの暮らす町へいこう。ふふ、そうしたら家族水入らいらずで暮らすとしよう」


「あ、その話まだ続いていたんだ?」


「無論だ。今なら姉の気持ちがわかる。惚れた男と一緒に暮らしたいというのは、自然なことだな」


「……惚れたって、本気なの!?」


「当たり前だ。冗談でそんなことをいうものか。私はドラゴンに立ち向かい、多くのエルフを癒し、そして子供に優しいお前に心底惚れたのだ! 文句があるか!」


「いや、あの、文句なんて全然ありませんけど」


「まさか私では不満だとでもいうのか!?」


「いやいやいや、そんなことはないよ! でも、なんていうか、急すぎて心の準備ができていないっていうか、そんな急に告白されても」


「ええい! 貴様は初心な少女か! 男ならどんと構えて、私を嫁にしてミナの妹を作るくらいの気概を見せたらどうだ!」




 宴を終えた翌朝。


 レダとミナはエルフたちに見送られて集落を後にしようとしていた。


 の、だが、エルフたちと別れの挨拶をしていると、ヒルデガルドが突然すぎるレダへの告白を始めてしまい驚いて目を丸くしてしまっている。




 エルフたちは、集落の英雄となったレダならヒルデガルドを任せられると好意的で反対する者はひとりもいない。


 助けを求めてミナに視線を送るも、彼女は友達となったケートと別れの挨拶をしているためこちらを見てもいなかった。




(女の子……っていっても俺よりも年上なんだけど、こんなかわいい子に告白されるなんて思いもしなかった)




 レダの戸惑いは大きい。


 なにせ先日、恋人に手痛くフラれたばかりなのだ。


 しかも、その恋人とは名ばかりの恋人で、手さえ繋いだことのない関係だった。


 思い返せば実に寂しい。


 ついでに言っておくと、レダに女性経験はなく、女性慣れもしていなかった。




「これこれ、ヒルデガルド。あまり婿殿を困らせるではない」


「む……長」




(いつのまにかエルフの友からエルフの婿になってるぅううううううう!)




「いずれ婿殿の住まう町へ赴くのだ。話はそのときに腰を据えてすべきではなかろうかな?」


「……長の言う通りだな。レダ、私と再会するまでに諸々の覚悟を決めておくといいぞ」


「あ、あははははは」


「笑ってごまかそうとしても無駄だからな!」




 ヒルデガルドの好意は嬉しい。


 だけど、自分のどこになぜだ、という疑問のほうが大きかった。


 それは彼女の言葉で説明されても変わらない。


 女性と縁がなかった中年冒険者などそんなものだ。




「レダ殿、ブラックドラゴンの件、お願いしましたぞ」


「はい。任せてください。ちゃんとギルドに査定してもらいますから」




 当初、ブラックドラゴンを売るためにエルフにギルドを紹介する話だったが、復興のためにできるだけ資金が欲しかったエルフたちと相談した結果、レダがアイテムボックスにドラゴンの死体を収納して、ギルドに持っていくこととなった。




 レダは冒険者だ。査定を頼むのも問題ない。


 ドラゴンの出どころや、どうやってこんな危険すぎる生物を倒したなどと根掘り葉掘り聞かれるだろうが、それは覚悟の上だ。


 底辺冒険者がこんな大物を持って帰れば大騒ぎになることくらいわかる。




 報酬に関してもしっかり話し合った。


 結果、ドラゴンについた値段の三割をレダがもらい受けることになった。


 まだ査定はまだだが高額がつくことは間違いない。




 レダは自分のためではなく、保護者としてミナのためにしっかり報酬をもらうことに決めたのだ。




「レダよ、お前と出会ったことはエルフにとって幸運だった。私もお前のような気持ちのいい人間と会えたことに感謝している」


「クラウスまでそんなこといって、やめてくれよ。俺、おっさんだから最近涙腺が弱いんだぞ」


「まったくお前と言うやつは。私よりも若いくせに、どうも覇気がないな。いや、お前はそれでいいのかもしれん」




 そう言って差し出してきたクラウスの手を、レダはしっかりと握りしめた。




「私もいずれアムルスの町へといくだろう。そのときは、また酒でも飲もう」


「楽しみにしてるよ」


「それと、大きなお世話かもしれないが……」


「うん?」


「きっとお前ならよい父親になるだろう」


「――ありがとう。そうなれるよう頑張ってみるよ」




 まだミナにはなにも伝えてない。 


 しかし、保護者としての自覚に目覚めたレダは中途半端な関係を終わらせようと覚悟していた。


 それは――正式に父親となること。


 未婚だし、女性経験もなく、甘いところもたくさんある。そんなレダだが、ミナのことをちゃんと責任持って幸せにしてあげたかった。




 親子だと言われ否定せず、微笑むようになったミナに「本当の家族になろう」と伝えたい。


 レダは、町に戻ったら彼女に家族になろうというつもりだった。


 そのため、もう今から緊張している。


 どんな反応をされるのか怖くもある。


 それでもレダは進むと決めたのだ。




 こうしてレダとミナはエルフたちに別れを告げて、転移魔法を経由して町の近くまで戻った。




「さあ、町へ帰ろう」


「うん!」




 自然とふたりは手を繋ぐ。


 まるで親子のように。




(……驚くことばかりの数日だったけど、俺にとっていい経験になった。ミナにとってもそうであってほしいな)




 いずれエルフとアムルスの町で交友が深まれば、またみんなと会うことができる。


 それはきっと遠くない話だ。


 近い未来を想像しながら、レダはミナの手をしっかり掴んで町に向けて歩いていくのだった。






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