28「エルフとの出会い」②
(……エルフってはじめてみた。うわ、本当に耳が尖っているんだな)
男性エルフに弓を向けられたレダは、背後にミナを庇いながら、無駄な衝突を避けようと友好的に声をかけた。
「俺は回復魔法が使えるんだ。怪我人がいるなら手当をしてあげたい」
「私たちに気安くするな、人間め。そう言って金を毟り取ろうとする魂胆だろう。支払わなければ家族を奴隷にするとでも脅すか?」
(……エルフの人間嫌いは聞いたことがあったけど、本当にそうだとは思わなかった。なにがあったらこんなに嫌われるんだよ)
だが、気に入らなかった。
(今もこうして血を流れている子がいるんだ。「そういうの」は後だろ!)
「いい加減にしろ! エルフとか人間とか、今はどうでもいいだろう! そこに倒れている子はあんたと同じエルフだろ! まず助けようと思わないのかよ!」
「貴様に言われるまでもない! ……しかし、私たちでは治せないのだ。アムルスの町に戻りたいが、私たちは人間を信用できない。ならば里に戻り手当をするだけだ」
「それまで苦しい思いをさせておくのか? 俺なら治せるかもしれないのに」
「無駄だ。回復魔法を使えようとも、モンスターの毒まで癒すことはできまい」
「――毒?」
ノアには心当たりがあった。
先ほど、矢で射殺されたルビータイガーを思い出す。
奴らの爪には毒があり、人の体内に入り込めば高熱を発するという。その熱で死に至る場合もあるといい、強さ以外に要警戒のモンスターだ。
反面、道具や武器武具としての素材には希少だったりする。
「大丈夫だ。俺ならできる」
完全な「治療回復」は使えない。
しかし、「解毒」ならできる。
レダは不思議と自信があった。
それ以上に、毒と傷で苦しむ子供を助けたかった。
「おいっ、貴様、我が子に近づくな!」
肩をつかもうとするエルフの腕を弾き、女性のエルフの膝の上に頭を乗せて苦しむ子供エルフの近くに行き、膝をつく。
「あの」
「悪いようにはしません。ただ、治療をさせてください」
「……はい。息子をお願いします」
母親のほうは、警戒心こそあるようだが、レダに小さく頭を下げた。
揉めなかったことに感謝して、子供の様子を見る。
(苦しそうだな。毒のせいで熱も出ているんだろうけど、傷そのものも結構深い)
ルビータイガーの爪で切り裂かれ、毒まで入ってしまったのだろう。
ミナとそう変わらない年頃の少年には少々酷である。
「じゃあ、はじめます。――解毒」
緑色の淡い発光が少年を中心に魔法陣を描く。
「続けますよ、――回復!」
解毒したと同時に、傷も癒していくと、少年は苦しそうな表情から一変して穏やかなものとなった。
「ああっ、ケートの顔が……熱も引いているわ。ありがとう! ありがとう! あなた!」
妻が呼ぶと男性エルフは弓をおろし、駆け寄ってきた。
レダは、気を使い少年の側から離れ、近くで見守ってくれていたミナのもとへと向かう。
「治ったの?」
「もちろん」
「さすがレダだね」
「ありがと」
微笑みあっているレダたちに近づく影ある。
男性エルフだ。
(勝手に治療したから怒ってるのかな? エルフって美形すぎて感情が読みづらいんだけど)
反射的に身構えてしまうレダと、背に隠れて小さな威嚇のような唸り声を上げるミナ。
そんな二人に対し、エルフの男性は深々と頭を下げた。
「息子ケートを治療してくれたことを心から感謝する。私たちには傷を癒す薬はあっても、解毒薬がなかったのだ。ただ、先ほどもいったが、金はない。お前は治療士だろう? ならば、その、支払いが」
(エルフにまで治療士はぼったくりだと思われているって逆にすごいんだけど)
「あー、なんていうか、俺は治療士って名乗るほどじゃないんだ。回復魔法ができる冒険者くらいに思ってくれていいよ。今回だって、お金を請求するつもりなんてない」
「しかし!」
「お金ないんだろ?」
「――うぐっ、そうなのだが」
「出会ったのも何かの縁だ。よかったら、話を聞かせてくれ」
レダの訴えに、男性エルフは重い口を開いた。
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