25「伐採のお手伝い」②




「うわぁ、予想外の威力だった」




 音を立てて倒れていく木々に、レダは耳を塞ぎながらそんな感想を人ごとのように言った。




「レダ……すごぉい」


「おいおいおいおい、兄ちゃん! やれといったけどここまでやれなんていってねーぞ!」


「俺たちの仕事がなくなっちまう!」


「いっそ、木こりになってくれ!」


「いや、まだ俺たちには木材を町に運ぶという仕事があるぞ!」




 ざっと数えて三十本近い大木が倒れている光景に、木こりたちがざわめきはじめた。


 ミナにいたってはレダの背中にきらきらとした瞳を向けていた。




「おいっ、兄ちゃん! なにしやがったんだ?」


「えっと、風魔法の風刃ってあるじゃないですか。あれ基本は縦一線に放つ魔術なんですけど、それを横一線に放ってみたらこうなりました」


「おまっ、これ、風刃かよ!? 風刃って風魔法の初歩クラスだろ! お前さんのは風刃ってレベルじゃねーだろが!」




 レダに詰め寄るテックスの驚きも無理はなかった。


 本来、「風刃」という魔法は、大木を数十本まとめて切断できるような強力なものではない。


 せいぜいモンスター一体を切り裂く程度の力しかないのだ。


 だが、これはレダの魔力が大きすぎるせいだ。




 レダ自身はまるで無自覚だが、「回復」が「大回復」ほどの効果を発揮しているように、ただの「風刃」も想定外の力を発しているのだ。




「いや、マジで冒険者ギルドから木こりとして派遣してくれねえかな。兄ちゃんがいればモンスターの襲撃を恐れずに伐採が一瞬じゃねえか」


「テックスさん、別に魔法使いがいればこのくらいできますって」


「その魔法使いがいねーから、うんうん唸ってるんだろうが!」




 魔法使いは、決して少ないわけではないが多いわけでもない。


 それ以前に、木こりの真似事をしてくれるような奇抜な魔法使いなどは皆無だろう。




「ったく、悪かったよ。別に兄ちゃんが悪くないのはわかってるんだが、こうも理不尽な目に遭うとな。そういえば、回復魔法も攻撃魔法も使えるのに、どうしてこんな辺境の町にきやがったんだ?」


「……実は、所属していたパーティーをクビになりまして」


「はぁ!? 嘘だろ! 回復魔法が使えるだけで普通は手放さねえだろう! なに考えてんだ、お前さんの仲間は!」


「俺の冒険者ランクってFなんですよ。だから、足手まといってことで」


「頭が痛いぜ。王都のギルドは馬鹿ばかりか? わかった。俺に任せておけ。多分、俺が余計な口を出すことじゃないんだろうが、アムルスのギルド長は知り合いだから、ランクについて言っておいてやるさ」


「いいんですか?」


「いいもなにも、昨日の活躍だけでも十分にランクアップ案件だ。どうやら王都じゃちゃんとした評価を受けられなかったみたいだが、こっちじゃふさわしい評価を受けておくんだぞ。お嬢ちゃんもいるんだから、保護者として胸を張りたいだろ?」




 テックスの言葉に、レダはハッとした。


 そうだ。今までは、他人の評価が低かろうと、別にいいと思うことがあった。


 自分なりに努力している。評価されないのなら仕方がない。いつか、認めてもらえる日が来る。そんなことをずっと考えていた。




 しかし、今は自分だけの問題ではない。


 レダの評価は、ミナにも関係していく。ミナのためにもレダは評価されたいと思った。




「それは、そう思います」


「そういうこった。まあ、俺に任せとけ、ギルドだってお前さんを抱えるほど期待しているんだろうから、いつまでも底辺に押しとどめたりはしねえはずさ」




(テックスさんの言葉通りになってくれればいいんだけどな)




「ま、喋るのはこのくらいにして……問題は、この木材をどうするかだな。おい!」


「へい! 木材はこの場で加工しちまってもいいですが、モンスターが怖いので、伐採したらとりあえず町まで運んじまうことにしてます」




 近くを通った木こりに尋ねると、木こりの青年は愛想よく応えてくれた。




「荷馬車にのるか? まあ、伐採の時間が減ったと思えば、往復させればいいのか」


「テックスさん、よかったら俺が運びましょうか?」


「なに言ってんだ、兄ちゃん?」


「俺、実はアイテムボックス持っているですよ。だから、――木材、収納」




 レダが木材に触れて、「収納」と声にしただけで、倒れていた大木がすべて消えた。




「――なぁ!?」


「え? いまのレダがやったの? すごい! レダすごいっ!」




 正確には消えた、ではなく、アイテムボックスという亜空間スキルに収納されてしまったのだ。


 ミナは手を叩いて喜んでいるが、さすがにテックスは予想していなかったのか、




「もう兄ちゃんはなんでもありだな」




 と、困ったような苦笑を浮かべるしかなかった。








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