23「森の中の治療」②



 テックスたち護衛が先行し、レダが森の奥へかけつけると、そこにはモンスターの死骸と倒れる人々がいた。




「おいっ、大丈夫か!? 兄ちゃん、頼むぜ!」


「わかりました! 負傷がひどい人からこっちに連れてきてください!」




 ひらけた地面の上に清潔なシートをミナと手際よく広げていく。


 すぐにテックスがまだ十代半ばほどの少年を抱えて連れてきた。


 その少年の腕は、半ばまで食いちぎられていた。




(これはひどい……よかった完全な欠損になってなくて)




 さすがにレダも部位欠損までは治したことはない。


「大回復」同等以上の効果があるレダの「回復」ならば治せるかもしれないが、こんな土壇場で試したくなかった。




「……レダ、だいじょうぶ?」


「ああ、問題ない! ミナはお湯を沸かしてくれ」


「うん!」


「悪いけど、誰か、ミナに付いていてくれ!」


「はい! 俺が!」




 万が一を考え、冒険者をミナの近くで備えさせると、レダは怪我人と向き合う。




「おい、おいっ、しっかりしやがれ。今、この兄ちゃんが治してくれるからな、ほら、眠るな」




 意識が飛びそうな少年に懸命に声を掛けるテックスの隣に屈み、手をかざした。




「――回復」


「おおっ、こいつはすげぇや」




 見る見る修復されていく腕の傷にテックスが感嘆の声をあげた。


 レダは完全に少年が回復するまで「回復」をかけ続けた。


 そして、一分もしないうちに、少年の傷は完治した。


 呼吸も安定し、顔色も戻っている。


 失った血こそ元に戻ることはないが、もう大丈夫だ。




「レダ、お湯のじゅんびできたよ」


「ありがとう。じゃあ、この子の腕についた血を拭いてあげて」


「わかった!」




 ミナが力強く頷き、さっそく絞ったタオルで少年の血を拭っていく。


 その間にも、負傷者はレダのもとに運ばれてきた。




「兄ちゃん、次はこいつだ」




 続いて、寝かされるのは、肩から腹にかけて鉤爪で引き裂かれている体格のよい男性だった。


 彼はレダを見ると、あからさまに困った顔をして、弱々しく首を横に振った。




「……治療士に見てもらう金なんて、ねえんだよ……家族が路頭に迷っちまう……ポーションかけて、医者に連れて行ってくれ」


「馬鹿言ってんじゃねえよ。この傷じゃ町まで持たねえぞ。それこそ、家族を路頭に迷わせちまうじゃねえか馬鹿野郎! それに、この人はギルドから連れてこられた治療士だから、あんな法外な金をとったりしねえよ!」


「……本当か?」


「お金はいいですから、まず、怪我を治しましょう」




 返事を聞くことなくレダは「回復」をかける。


 みるみる傷が癒えていき、傷痕さえ残さずに男性を治療してしまった。




「すげぇな兄ちゃん……俺も治療士の治療を見たのは初めてじゃねえが、治る速さが違いやがる。腕は兄ちゃんの勝ちだな」


「ありがとうございます。ミナ! この人も!」


「はぁい!」




 二人目を治療し終えると、レダは額の汗を拭って呼吸を整える。


 回復魔法はなかなか魔力を持っていかれる。集中力も必要だし、疲れるのだ。


 まだ余裕はあるものの、なかなか大仕事だ。




(もしかすると冒険者としてダンジョンに潜るよりも大変かもしれないな)




 なによりも、自分以外の命が関わっているのだから緊張してしまう。




「ほら、三人目いくぞ。ここからは軽症だ!」


「わかりました。どうぞ、ここにきてください!」




 そして、骨折、裂傷、打撲を負った負傷者を次々に回復魔法で治していく。


 そう時間がかからずに、レダは全員を治療し終えるのだった。




「……はぁ。これで全員か。結構疲れたぁぁ」




 重傷者は失った体力まで戻らないので未だ横になっている。


 護衛冒険者が荷馬車を準備しているので、それに乗って町へ戻る予定だ。


 比較的軽かった軽症者たちは、レダに感謝の言葉を告げると、回復した体を確かめるようにもう動き回っている。




 そんな彼らを見つめながら、彼らの血がついた腕をミナが持ってきてくれた熱々のタオルで拭う。




(責任を果たすことができてよかった)




 ギルドからの依頼初日目が、このまま終わってくれればいいと思う。


 二度目のモンスター襲撃がないことを祈りながら、レダは一息つくのだった。








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