22「森の中で治療」①
冒険者ギルドと契約し、定期的に回復魔法で治療を行うことにしたレダは、さっそくギルドから頼まれて町の外に出ていた。
「まさか昨日の今日で、こんなことになるとは思わなかった」
昨晩、少々飲み過ぎたせいで頭が痛い。
ちょっとあきれた視線をミナから受けながら、レダは町の裏手にある森にいた。
アムルスの町は発展途上だ。
現在、人々が住まうためや、商売用の建物が多くの職人たちによって作られている。
そのため、多くの木材が必要となっているのだ。
今日は、木材調達を行う面々と、その護衛に付き従う冒険者たちの手伝いをするために呼ばれていた。
最近、森などではモンスターの数が増えていると報告がある。
つい昨日の重傷者たちも、同じく木材調達の護衛をしていた冒険者たちだった。
昨日活躍した回復魔法を使えるレダを応援に出すことで、万が一の襲撃に備えている。
無論、レダやミナになにかあってはいけないということで、護衛の冒険者の数も増えている。
「おう、お前さんがレダとミナちゃんかい? 今日はよろしく頼むな」
気さくに声をかけてきたのは、四十ほどの男性だった。
白髪混じりの金髪を伸ばしてひとつに紐で結び、口周りとあご髭を蓄えている。
くたびれた衣服の上に、レザーアーマーという軽装備。
腰には長剣を二本刺し、いかにも冒険者という風体だ。
「俺はテックス。護衛隊のリーダーをさせてもらってる。なにもないことが一番だが、ま、なんかあったらよろしく頼むぜ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「んな丁寧に挨拶なんてしないでくれや、背中が痒くなる。お前さんもたしか冒険者って聞いていたんだが、ずいぶんとお行儀がいいじゃねえか」
彼の部下は、仮設テントを作るため慌ただしく動いている。
レダは、ミナと荷馬車の荷台にいたが、テックスが話しかけてきたので外へと出る。
「ところで、この子はあんたの娘かい? にしちゃ、ちょっとかわいすぎねえか?」
「血の繋がりはないっていうか、親子じゃなくて保護者だよ」
「はっ、それのどこが親父じゃないっていうんだ? 保護者なんて言ってる時点で、お前さんは十分の親父だよ」
バシバシと背を叩かれて、レダがむせる。
少々馴れ馴れしいテックスに、ミナはちょっと人見知りを発動してしまっていた。
「お前さんには礼を言いたかったんだ。昨日、ギルドに運ばれた奴らの大半は俺の知り合いでな。全員が無事に戻ってこれて本当によかった。ありがとな」
「できることをしただけですから」
「なにいってんだ。そのできることをしてくれねぇ治療士様がいるから、お前さんにギルドが頼ることになったんだろ? もう少し偉そうにしたって俺たちは気にやしねえよ」
気さくさを見せながら、瞳には真摯な感謝を宿すテックスが、仲間を大切にしていることはすぐにわかった。
レダはこの冒険者をすぐに好きになった。
「ま、お礼と言っちゃなんだが、この町にも綺麗な姉ちゃんがいる店がいくつかあってな。今夜にでも連れて行ってやるよ」
「レダはそんなお店いかないもん」
「うぉ……こんな小さい子に、ゴミでも見るような目で見られてんだけど。おいおいっ、どういう教育してんだよ!?」
「ミナも、そんな顔するんだね。ちょっと意外っていうか、しらない一面を見たっていうか」
女遊びにレダを連れて行こうとするテックスに、ミナが見たことない顔をしていた。
出会ってからミナは少しずつ、感情を見せてくれるようになった。
昨日は、距離感が縮まった気がして、嬉しくもなった。
しかし、こんな誰かを軽蔑するような目をするとは知りたくなかった気がする。
(おもわず、うん、って言わなくてよかったぁ! でも、かわいいお姉さんがいるお店……ここにもあるんだ)
覚えておこう、と思う。
いつか、こっそり行きたいなという考えが脳裏によぎる。
レダだっておっさんとはいえ立派な男性だ。やはりかわいい子や綺麗なお姉さんは好きだ。
ただ今まで縁がなかったので耐性がない、つまりヘタレである。
(でも、もし、ミナから思春期の女の子が父親を汚らわしいものでも見るような目で見られたら……きっとショックで死ぬな。うん)
レダも繊細なお年頃だ。
もし、嫌いとか臭いとか言われたら、泣く自信があった。
心優しいミナならそんなことを言わないと信じてはいるが、もしかもしたら訪れるかもしれない未来に、背筋を震わせた。
「おぉおおおおおいっ! 大変だ! 怪我人が出ちまいやがったっ、治療士を呼んでくれぇ!」
ミナも気さくなテックスに慣れていき、三人で談笑していると、森の中から木こりがひとり大慌てで走ってきた。
「ほら、落ち着け。どうしやがった?」
一番に駆け寄ったのはテックスだ。
彼は、木こりの青年に水を飲ませて落ち着かせると、事情を尋ねる。
「モンスターが出て、護衛たちが対応してくれたんだけど、三人も大怪我しちまって。出血も多いからうごかせなくて、それで、冒険者ギルドから治療師がきてるから助けを呼びに」
「なるほどな、よくわかった。お前さんは、俺たちを案内してくれ、できるな?」
「あ、ああ、任せてくれ」
「よし、いい子だ。おい、レダ。お前さんの出番だぜ」
青年からレダへ視線を向けたテックスに、レダは力強く頷いた。
「ああ、任せてくれ!」
まだ自信はないし、技術も治療師などとは呼べるレベルではない。
それでも救える人がいるのなら、すべきことをしよう。
そう決意して、レダはテックスたち護衛に連れられて森の奥へミナを抱えて走ったのだった。
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