13「道中の出会い」①
レダとミナは、町民たちに見送られて、朝一番に町を立った。
もう少しゆっくりしていけばいい、と引き留めてくれる人もいたが、いつまでも世話になるわけにはいかに。
魔狼の被害もなくなり、平和な村を堪能したいという気持ちがないわけでもないが、レダは新天地を求めて出発することにした。
アムルスの町は、モルレリアの町から東にのんびり歩けば一日のところにある。
ミナという子供がいるので掛かる時間は前後するだろうが、いざとなればレダが抱えるなりすればいい。
「ねえ、レダ。アムルスってどんな町なのかな?」
「辺境っていったらもうここがそうなんだけど、発展途上の町らしいよ。開拓を始めたばかりで、まだ住人も少ないって聞いているね」
「ふうん。わたしたちは、そこでくらすの?」
「住人を募集しているから、そうなればいいね。一応、俺は冒険者として活動は続けるけど、実りのいい仕事があればそっちでもいいし。聞けば、仕事の紹介もしてくれるらしいから、まずはアムルスに行ってみてからかな」
「たのしみだね」
歩きながらくしゃりと笑顔をこちらに向けるミナの頭を優しく撫でる。
モルレリアの町を出発したころは、出会った人たちとの別れに寂しそうだったミナだったが、今では元気を取り戻していた。
やはり年頃の女の子は笑顔でいてほしいので、レダとしてもほっとしている。
(今日は天気もいいし、歩いていくにはちょうどいいな。ちょっと時間はかかりそうだけど、最悪日が変わる前にたどり着けばいいかな)
幼い子供に野営はさせたくないので、なんとか今日中にたどり着くことを目標としてレダは足を進めていく。
一時間ほど歩き、街道周りの木々が濃くなっていく。
この辺りは、森を開拓している場所のため、少々薄暗さがある。
モルレリアももとは森を開拓するために人々が拠点にした町だった。
現在は、その拠点をアムルスの町に移していて、国境境いの森や山を開拓し、街道を作ろうとしている。
未開な土地なためモンスターは出るし、野盗も同じように出没するらしい。
そこで冒険者の出番になる。
すくなくともすでに年単位で、これからも同じだけ開拓は進んでいくと聞いているので仕事には困らないだろうと期待していた。
「あ! 馬車がある!」
「……なにか、あったのかな? 近づいてみるけど、俺の後ろにいてくれ。いいね?」
「う、うん」
道の脇に止められた二台の荷馬車を見つけて、レダは警戒した。
誰かしらの気配は感じるが、こんな辺鄙な場所で止まっている理由がわからない。
休憩ならば、荷馬車の外に見張りなどの人がいるだろうし、獣除けのために焚き火だってたくはずだ。
しかし、なにもしていないので、首を傾げてしまう。
ミナを背中に庇いながら、レダはそっと荷馬車に近づいていき声をかけた。
「おい、なにか困りごとか?」
しばらくすると、荷馬車からターバンを巻いた中年ほどの男性が顔をのぞかせた。
「あ、あなたはどちらさまでしょうか?」
「俺は冒険者のレダだ。荷馬車をこんなところで止めて、なにかあったのか?」
「え、ええ、実は……モンスターに襲われてしまいまして」
「モンスターがいるのか!?」
腰からナイフを抜き、周囲を警戒する。
ずっとモンスターと遭遇することがなかったので安心していたが、本来未開の地ではモンスターと出会うことはなにも珍しくないのだ。
「いえ、もう、退治することはできました」
「うん? じゃあどんな問題があるんだ?」
「実は……護衛の冒険者が怪我をしてしまいまして、手持ちのポーションでは、その、治せずに困っているのです」
「なんだ、それなら俺が力になれるかもしれない」
「と、いいますと?」
「俺は回復魔法が使えるんだ。神官や治療士ほどじゃないけど、よかったら回復魔法を使ってみようか?」
「――いいのですか?」
「もちろんだよ」
「で、ですが、その、失礼ながらご満足されるお支払いができるかどうか」
「あー、そういうのはいいって。無料、無料」
「無料ですと!?」
レダの言葉に、商人の目が変わった。
「それならば、お願いできますでしょうかっ! 無料でとはいいません! お礼はしますので、ぜひに!」
商人に腕を掴まれるとレダは馬車の中に引き摺り込まれてしまうのだった。
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