14「道中の出会い」②




「いやはや助かりました。冒険者のみなさんが怪我をして困っているところに、回復魔術をお使いになられるレダさんたちが通りかかるなんて、神様は見ておられるのですね」


「俺たちも、馬車に一緒に乗せてもらって助かります。な、ミナ」


「うん、ありがとうございます、おじさん」


「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ、お嬢さん」




 レダたちは、商人のエーリヒ・ラッハーが手綱を握る荷馬車に同乗させてもらっていた。


 エーリヒは、王都に商会を持ちアムルスと行き来しながら行商をしていると聞いた。


 目的地が同じであることをなにかの縁と思った彼が、善意で荷馬車に乗せてくれたのだ。


 ミナのことを考えると断り理由はなかった。




「ったく、モンスター相手に不覚をとるなんて、俺たちもまだまだだな」




 下位モンスターの小規模の群れと戦った冒険者たちは、新米の若者だったこともあり苦戦してしまったようだった。


 若者たちは活気のある十代の少年少女の五名。


 腕や足を噛み付かれてしまい、肉をえぐられ、骨を折られるなどの重症だったのだ。




 ポーションは用意してあったようだが、あまり質の良いものではなく、表面上の怪我は治せても、骨折までは治せなかった。


 エーリヒが荷として持っていた上級のポーションを使おうと提案したようだったが、そんな高価なものを使われても支払えないと拒否。


 途方に暮れていたらしい。




 レダの回復魔法は冒険者たちを完治させた。


 先日、魔狼に襲われた若者たちのほうがよほどひどい怪我だったので、レダも治せるという確信があった。




「ほんと、レダさんのおかげで助かったぜ」


「私も感謝していますー。足が折れていたら護衛なんてできませんからー」




 先頭の荷馬車には、エーリヒの部下が手綱を握り乗り込んでいる。


 護衛の冒険者たちは、先頭にひとり、馬車を囲むように四人が守っている状況だった。




「いいって、エーリヒさんも言ったけど、困ったときはお互い様だろ」


「それでもさ。上質のポーションなんて使ってもらっちまったら、依頼料がすっとんじまうからな」


「いえいえ、こちらとしては、やむなしと思っていたので請求するつもりはなかったのですが」


「俺たちがギルドに怒られちまうからさ」


「もっともー、それで護衛ができなくても、怒られるのはかわりませんけどねー」




 レダたちと会話しているのは、パーティーのリーダーであるバンダナを巻いた赤毛のディクトと、青い髪にすっぽりとんがり帽子をかぶった間延びした口調の魔法使いフェイファだ。


 他の仲間たちを含め、彼らはレダに感謝していた。




「にしても、おっさんはあんなすげー回復魔法が使えてもFランクなのか。俺たちも同じランクだけど、Dランクに上がれる日が来るのか不安になるぜ」


「君たちは若いからきっとなれるさ。その気になれば、CランクBランクも夢じゃないと思うよ」


「そうなればいいんだけどさ」




 彼らは決して、いい歳をしながらFランクのレダを馬鹿にすることはなかった。


 同じランクだということもあったかもしれないが、恩人だからだろう。


 レダにすると少し新鮮な反応だ。


 底辺ランクの冒険者を何年も続けているおっさんは、度々馬鹿にされることがあるのだ。




「おっと、そろそろ見えてきますぞ。もうすぐアムルスの町です」




 木々の隙間から、ゆっくりと街並みが見えてきた。


 まだ発展登場だとわかるアムルスは、作りかけの城壁に囲まれたそう大きくない町だった。


 未完成な部分は木材で覆われていて、今も職人たちがレンガを積んでいる姿が見える。


 建物もそう多くなく、地面も土のまま舗装されていないように伺えた。




「ひときわ大きなお屋敷が、領主様がお住まいになっているローデンヴァルト辺境伯宅です」


「……あれが、変わり者と有名な辺境伯様の家か」


「はっはっはっ、変わり者と言うのは同じ貴族ばかりですよ。私たち一般人からすれば、民のことをよく考えてくださる、いい領主様です」


「へぇ」




 アムルスの町はローデンヴァルト辺境伯の領地だ。


 現在、若き当主であるティーダ・アムルス・ローデンヴァルトは、「変わり者」と呼ばれる貴族だった。


 その理由は、先祖代々の土地から、わざわざ国境沿いに町を起こし、一族の名を与えた。


 当主自らが、発展途上の町で暮らし、民と一緒に頑張っているらしい。




 普通の貴族ならまだしない行動が彼を「変わり者」と呼ばせているのだ。




「私も何度かお会いしていますが、お優しくとてもすばらしいお方です。レダさんも機会がありましたらお話ししてみるのもいいでしょう」


「いや、そんな貴族と簡単に」


「いえいえ、町の人たちと一緒に働いていますので簡単にお会いできると思いますよ」


「そんな貴族もいるんだ」




 領主がよければ民も幸せだ。


 今朝までいたモルレリアの町も、同じくローデンヴァルトの領地だが、平和そうに暮らしていた。


 重税を課すような領主ではないと、とりあえずわかる。


 少しだけ、どんな貴族なのか実際に会ってみたいと興味を抱いたレダは、町の入り口付近まで近づく馬車の中で胸を躍らせた。




(そういえば……ミナがさっきから静かだけど)




 と、まったく会話に入ってこない少女が退屈していないかと心配になって顔を覗き込んでみると、レダの肩によりかかって寝息を立てていた。




「はははは、どうやらお嬢さんには退屈だったようですね。さて、そろそろ荷馬車を止めましょう。私たちは荷物のチェックでしばらく時間を取られてしまいますが、どうぞレダさんは先に進んでください」


「ありがとうございます。お世話になりました」


「いいえ、こちらこそお世話になりました。このご恩は必ずお返ししますね。私のラッハー商会はいつでもレダさんのお力になることをお約束しましょう」


「こちらもなにか困ったことがあればぜひ。といっても、Fランク冒険者なのでできることは限られていますが」


「そんなに卑下されることはありませんぞ。レダさんの回復魔法は素晴らしい。この私めが保証しましょう」




 温かい声援に、レダはありがとう、と言った。


 偶然の出会いだったが、エーリヒと出会えてよかったと思う。


 彼のおかげで、夕方になる前にアムルスにもついた。


 若き冒険者が護衛を務めてくれたこともあり、道中は無事だった。おかげでミナものんびりお昼寝中だ。




「レダさん、ありがとうな! 縁があれば、一緒に依頼でも受けようぜ」


「ありがとーございましたー。ミナちゃんは起こしちゃかわいそうなので、またー、町でお会いできたときに声をかけさせてくださいー」


「二人とも元気で。他の仲間たちにもよろしく言っておいてくれ」


「おう!」


「はいー」




 ディクトとフェイファとも挨拶を交わすと、寝息を立てるミナをそっと抱きかかえて馬車から降りていく。




「じゃあ、世話になりました」




 そう言って、頭を下げると、エーリヒたちは手を振って見送ってくれた。


 よい出会いのおかげで、予想よりも順調にレダたちはアムルスの町にたどり着いたのだった。








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