11「魔狼退治」②




「いたぞ! かかれ! かかれぇ!」




 山に入ってすぐレダと青年団は魔狼の群れを見つけた。


 事前にしかけてあった罠に二体の魔狼が足を取られて動けなくなっているところを、仲間が見捨てられなかったのだろう。




 先制攻撃とばかりに、矢を放っていく。


 群れの数は五体。


 押して勝てない数ではない。




「――炎の精霊よ! 敵を焼き尽くせ!」




 レダも負けじと炎の魔法を放っていく。


 炎が百を超える火球となる。


 動けない魔狼めがけていっせいに射出する。


 獣が一番苦手とするのは炎だ。それは魔物でも変わらない。


 森で炎を使うことには気を使うが、今は退治を優先しないとならない。




「レダさんに続け!」




 リグスの掛け声に、さらに矢が放たれる。


 矢は動けない魔狼を容赦無く居抜き、確実に血を流せていた。


 そこへ火球がぶつかり、魔狼がたまらず悲鳴のような雄叫びを上げていく。




 その時だった。


 自由に動ける魔狼たちが、仲間を守ることをから敵を倒すことを優先して動き始めた。




「くるぞぉおおおおお! 魔狼が動き始めたぞぉおおおおおお!」




 唸り声をあげて三体の魔狼がレダたちに襲いかかる。


 次々に、悲鳴が響くが、みんなの攻撃の手が緩むことはなかった。


 ここで敗北すれば、二度と戦えない。


 それくらいの覚悟で、青年たちはここにいるのだ。




「レダさん! 魔法で動けない二体を倒してしまってください!」


「わかった! 持ちこたえてくれ、怪我なら後で俺が直してやるから!」


「はい!」




 青年たちが返事をしたことで、レダは意識を動けない魔狼に向ける。




「――焔の槍よ、敵を貫き焼き尽くせ!」




 今度は火球ではなく、槍状になった炎だった。


 その数は五十を超える。


 その一本一本に、炎の熱だけではなく、物理的な殺傷能力まで備わっている。




「穿て!」




 レダの合図で、いっせいの炎の槍が放たれた。


 魔狼の黒い毛並みはすでに火球によって焼かれている。


 そこへ、今度は炎が槍とかして襲いかかってきた。


 つんざくような獣の悲鳴が森にこだまする。


 容赦無く、その大きな体躯を貫かれ、内側から焼かれた魔狼は瞬く間に絶命した。




「すげぇ……嘘だろ、あんなことできてどうしてFランクなんだよ?」


「馬鹿野郎っ、よそ見してんじゃねえよ……って、おいっ、レダさん、もう二体倒しやがったぞ!?」


「俺たちもレダさんに負けるな!」


「ぉおおおおおおおおおおおおおっっ!」




 魔狼を二体屠ったレダに驚きながらも、彼がいれば倒せると確信した青年たちが雄叫びをあげて魔狼へと突っ込んでいく。


 体格差はある。


 恐怖もある。


 鋭い牙や爪をふるわれれば、一撃で致命傷だ。




 だが、今はレダがいる。


 回復してくれるし、自分たちになにかあってもレダさえいれば倒してくれると信じていた。


 最悪、お自分たちが囮になっても構わない。


 そんな覚悟さえあったのだ。




 青年たちの覚悟と気合。


 そしてレダの攻撃魔法と回復魔法のおかげで、魔狼の群れはそう時間をかけずに壊滅したのだった。








 ※








「レダ……まだ、かな」




 ミナはもう何度目になるかわからない、ため息混じりの呟きをしていた。


 とにかくレダが心配だった。


 あの優しくて、笑顔を絶やさない彼が、魔狼なんて恐ろしい魔物と戦えるのだろうかと不安になる。


 すでに半日が経っているだけに、心配は募っていた。




「大丈夫だよ、あんたのお父さんはきっと無事に帰ってくるさ」




 同じく町の青年たちを待つ老婆が、勇気付けてくれる。


 ただ、ミナにとってレダは父親ではない。


 もっといえば、仲間でもないかもしれない。


 まだ出会ったばかりの知り合い程度の関係だった。




 しかし、ミナはレダを心から案じていた。


 彼が傷ついている姿など見たくない。


 出会った時と変わらない笑顔で早く帰ってきてほしい。


 お願いします、と信じてもいない神様に必死で祈る。




 すると、




「青年団が帰ってきたぞ!」


「みんな無事だ!」


「怪我もしていないようだ! でも、ああ、そうか、レダさんに回復してもらったみたいだ!」


「レダさんのおかげだ!」


「これで魔狼を心配しなくてすむぞ!」




 町人たちが次々に歓声を上げて、青年団とレダを出迎えていく。


 ミナは照れた笑顔を浮かべながら、町人たちに控えめに手を振るレダに、きゅうっと胸を締め付けられる感覚を覚えた。




「ほら、お父さんのところへいってあげな」




 老婆が皺くちゃの笑顔でそう言ってくれた。


 親子でないことを訂正することもできたが、ミナはしなかった。


 そんなことをするよりも、一刻も早くレダに駆け寄りたかったのだ。




「うん! ――レダ!」




 気づけば走っていた。


 彼はこちらに気づき、地面に膝をついて両腕を広げてくれた。


 そんな小さな気遣いが嬉しい。


 ミナの胸が暖かかくなる。


 様々な感情が胸の中にいっぱいになった少女は、




「おかえりなさい、レダ!」




 短い一言に全ての感情を込めて、彼の胸の中に飛び込んだのだった。








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