10「魔狼退治」①




 結局、レダの奮闘したおかげで報酬はいらないという結論に町の人たちは至った。


 しかし、安堵しながらもそれでは申し訳ないという気持ちのみんなは、今後レダとミナがこの町を訪れた場合、寝泊り、食事は無料と決めてしまった。


 これにはレダも苦笑いだが、大金を渡されるよりはいい。




 レダが報酬を拒んだことはあっという間に町中に広がり、多くの人たちに感謝された。


 眠るまでの間、ひっきりなしに人が集まっては礼を述べていき、とくに怪我人の家族からの感謝は大きかった。




 だが、レダにとって一番嬉しかったのは「レダ、かっこよかったよ」とミナが言ってくれたことだ。


 それだけで十分に報われたと思えたのだ。




 そして、一夜が明けた翌日。


 ――宿屋の前に青年たちが武装して集まっていた。




「レダさん、おはようございます!」




 完全武装、といっても田舎の小さな町だ。


 自警団とも言えない軽装備だった。


 皮を舐めして作った鎧に、質の低い剣や槍を持つ青年たち。


 特別な装備はしていないが、王都の魔法具店で揃えた、防御魔法が施された服を着ているレダのほうが防御面では優れているかもしれない。




 青年たちの目的は魔狼退治だ。


 いつまでも魔狼に好き勝手させていたら魔豚がすべて食われてしまい、収入がなくなってしまう。


 冒険者の――というよりも回復魔法が使えるレダはいるうちに、戦ってしまおうと決めたらしい。




 もともと冒険者のレダに手伝ってもらうおうと考えていたらしいが、決断させたのは回復魔法だった。


 昨日、回復した若者たちも、町のために、そしてレダに恩を返すと集まっている。




「おはようございます。みなさん、やる気満々ですね。いいことですけど」


「本日はよろしくお願いします! その、しかし、本当にいいんですか?」


「なにがですか?」


「今日、怪我を負っても回復魔法を無料でかけてもらえると聞いています。こちらとしてはありがたいことですが、本当にいいんでしょうか?」




 そう疑問をぶつけてきたのは青年たちのリーダーであるリグスだった。


 前回の魔狼との戦いの生存者の中で、もっともひどい傷を負っていた者でもある。




「構いませんよ。俺はこれからアムルスの町にいくんです。道中、魔狼に襲われたら困りますから、ここでみんなで倒してしまいましょう」




 魔狼は獰猛なモンスターではあるが、決して倒せない敵ではない。


 レダ単身ならば躊躇が生まれていただろうが、青年たち総勢三十名の力を借りればなんとかなるだろう。




 魔狼の弱点は物理攻撃ではなく、魔法だ。


 青年たちに魔法使いはいない。しかし、レダは簡単な攻撃魔法なら使える。


 前回の戦いよりも余裕は生まれるだろう。




「ありがうございます! それでは、さっそく山へいきましょう!」




 リグスの掛け声を受け、青年たちが鬨の声をあげる。


 見送る町民たちも、そろって青年たちを応援する声を発した。


 そんな中、宿屋の女主人マリエラの腕に抱かれているのはミナがレダの目に映る。


 今回は危険が伴うので彼女には残ってもらうことにしたのだ。




 当初、ミナはレダと離れたくないと言ったものの、危険があると言い含めると最後は素直に頷いてくれた。


 マリエラがそばにいてくれることを買って出てくれたので、ありがたくまかすことにしたのだ。




「レダ、きをつけてね」


「大丈夫。心配しないで」




 少女の頭を優しく撫でると、レダは町の青年たちとともに森の中へ魔狼退治に向かったのだった。








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