4「女の子拾いました」③
「ふぁぁぁ……よく寝た」
翌朝の目覚めは爽快だった。
魔物よけを施してあるとはいえ、野営でぐっすり眠ることは初めての経験だった。
しかも、あったばかりの女の子と一緒のテントで、だ。
(ひとりじゃないのが逆によかったのかな?)
なんてことを考えながら、川で顔を洗うと、ミナのために水を汲んでおく。
まだ毛布に包まって寝息を立てている少女を起こさないように、レダは朝食の支度を始めた。
「ミナには悪いけど、簡単なものにしよう」
今日は近くの町まで歩くつもりなので、量は多めに、でもシンプルにいこうと決めた。
「さて、と。シチューは昨日のが残っているから、サンドイッチでも作ろうかな」
ひとりならばシチューの残りにパンを浸して食べるくらいでいいのだが、昨日美味しそうに食事をしてくれたミナのために簡単ながらちゃんとしたものを出してあげたかった。
アイテムボックスから材料を取り出し、まずは食パンから少し薄めにスライスする。
バターをたっぷり塗り、自分ようにはマスタードも多めに塗りたくった。
レタス、トマト、マヨネーズ、ハム、チーズと順番に重ねると、パンで蓋をして押しつぶす。
形が整ったところでナイフで斜めにカットすれば完成だ。
「よし完成」
指についたバターを舐め取りながら、レダは満足そうに頷いた。
サンドイッチは形の見栄えが重要だ。
女の子が食べるのだ。綺麗にできていた方がいいに決まっている。
さらにサンドイッチをよそり、焚き火にシチューをかけて温める。
ついでにお茶を飲もうと、水の入ったポットも一緒に火にかけた。
「……ん、んんっ」
しばらくしてシチューのいい匂いが河原に広がる頃、ミナがもぞもぞと動き始めた。
ゆっくり体起こしてぼーっとしていた彼女だったが、焚き火の前にいるレダの姿を見て、ハッとする。
昨日、渡したコートを羽織って、素足のままテントから出てきてこちらにやってきた。
「……おはよう、レダ」
「おはよう、ミナ。よく眠れたかい?」
「うん。毛布も、レダも暖かかったから」
「ならよかった。朝食は準備してあるから、さ、食べよう」
「……いいの?」
「いいに決まってるだろ。ミナが食べてくれないと、俺は悲しいよ」
「じ、じゃあ、あの、いただきます」
「はい、どうぞ、召し上がれ」
レダの隣に腰を下ろしたミナは、皿を受け取ると「……おー」と目を輝かせた。
小さな口でサンドイッチを齧り、もぐもぐと咀嚼する。
口にあったのか、リスのように頰を膨らませて頬張っていく姿はとても可愛らしかった。
つい、レダの頰が緩んでしまう。
「はい、昨日の残りで悪いけど、シチューも温まっているよ」
「ん……ありがとう」
一旦、サンドイッチの皿を地面に起き、木の器にたっぷり入ったシチューを受け取ったミナは、「ふー、ふー」と息を吹きかけてから、そっとスプーンを口に運んだ。
少女の冷えていた体に、シチューの熱が伝わっていく。
「んっ、おいしい」
再び、ミナは嬉しそうに表情をほころばした。
そんな少女の姿を眺めていたレダも、朝食をとっていく。
サンドイッチは、ハムの塩気がよく効いていた。
シャキシャキのレタスと、みずみずしいトマトとマヨネーズの相性は最高だった。
パンも昨日買ったばかりにものなので柔らかく、いい小麦の香りがした。
マスタードのピリ辛さもいいアクセントとして舌の上で踊ってくれる。
あっとうまに平らげてしまうと、シチューも味わうよりも、暖かいものを吸収する感覚で食べきると、満足げに大きな息を吐いた。
ゆっくり食べているミナが、レダが食べ終わったのを見て慌て始めるが、「ゆっくりたべて」と苦笑すると、お茶の支度を始める。
沸騰寸前のお湯を、焚き火から離す。
しばらくして若干温度が冷めたころに、アイテムボックスから取り出したティーパックに紅茶を入れて、お湯を注ぐ。
茶葉のいい香りが広がっていく。
食後のお茶には期待できそうだ。
カップをふたつ、アイテムボックスから出すと、ふたり分注いだ。
「はい、まだ熱いから気をつけて」
「うん」
ミナの前に注ぎたての紅茶を置き、レダは食後のお茶に口をつける。
「おっと、忘れてた」
ストレートでももちろん美味しいが、レダは砂糖を入れる派だった。
ミナにどうするのか聞くと「甘いのがいい」と言ったので、ちょっと多めに入れておく。
甘くなった紅茶を堪能しながら、レダは地図を取り出して眺め始めた。
(……ミナと一緒に移動するなら少しゆっくりになると思うけど……うん、夜には町に着くかな)
目的地であるアムルスではないが、工芸品と農業で成り立っているモルレリアという町だ。
比較的安全な場所にあり、周辺のモンスターも弱いと聞いているので、子供と立ち寄るにもちょうどよかった。
(まず、靴と服を買ってあげないと。俺のじゃサイズが違うし、素足のままだと寒いだろうからね)
残念なことに予備の靴は、鉄板入りの重いブーツしかない。
女の子には大きすぎるので、転ばれては困るので、無理に履かせる必要はないと考えた。
「ん……ごちそうさまでした」
そうこう考え事をしているうちに、ミナが食事を終えた。
さっそく旅支度にとりかかる。
ミナには組んである水で顔を洗ってもらい、その間にレダは食器類を綺麗にした。
テントを畳み、すべて収納すると、身支度と整えたミナが待っていた。
「じゃあ、いこうか?」
「うん」
返事をした少女を抱きかかえると、びっくりした顔をされてしまう。
「え? え?」
「靴がないから次の町まで抱っこさせてね」
「で、でも、重いよ?」
「ははは、ミナみたいに小さい子が重いわけないじゃないか。羽のように軽いよ」
恥ずかしそうに身をよじるミナに向けて笑顔を浮かべたレダの首に、少女は照れながらも手を伸ばしてしっかりくっついた。
レダとミナは、モルレリアの町を目指して出発した。
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